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【連載第12回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

危険ドラッグは成分内容がわからないから怖い! 誰もが合法だと思っていたものの中から......

成分内容が不明な危険ドラッグは予想もしない恐ろしい事態を引き起こすshutterstock.com

 今回は危険ドラッグが混入されていた「バスソルト(bath salt)」のずさんな管理、販売について、ある米国での事例の報告を紹介する。
 
 トラック運転手のグレン・ハンチは、デラウェア州ニューカッスルの店でガールフレンドのリチヤード・ヒッケルと一緒に「Smokin Slurries」というバスソルトを購入した。そして、自分のトラックの中で、このバスソルトを「自己注射」したのである。

 バスソルトとは、入浴剤として販売されている「デザイナーズドラッグ」と呼ばれる合成麻薬のこと。ハンチに「Smokin Slurries」を販売した店員は、通常のアダルトショップやタバコ屋で広く販売されていたため、その使用法を説明しなかったという。客がバスソルトの使用法の説明を求めたときは、「バスソルトを水に混ぜるか、あるいは原液のまま、一気飲みしてください」とは伝えるが、「注射するものではない」とは伝えないと、後にメディアの取材に答えている。 

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 トラックの中でバスソルトを注射して間もなく、ハンチは興奮状態に陥った。衣服を脱いでトラックから飛び出し、発狂したように走り出したのだ。そして、近くの有棘フェンスを飛び越えて付近のハーバーに向かい、建物の窓ガラスを打ち破った。一方、ガールフレンドのヒッケルは、トラックから落下して出血。ハンチとは反対方向に走り出し、「助けて!」と大声で叫んだ。ハンチは警備員に取り押さえられたが、まもなく心停止により死亡した......。

成分内容が不明だから予想できない恐ろしい事態を引き起こす

 後にハンチの担当検死官が、ヒッケルや販売店の店主、さらに、このバスソルトの製造元を聴取したところ、誰もが合法品であると信じていた。ところが、警察当局がバスソルトの成分分析を行ったところ、「αPVP」が主要成分として浮かび上がった。分析担当者によると、「αPVPは、きわめて中枢神経興奮作用の強い劇薬であり、合法薬ではない」とコメントしている。

 その後、αPVPは非合法であると周知徹底されたが、米国では現在でも依然として、この成分が含まれる商品は存在する。 

 このαPVPは、覚醒剤と類似した中枢神経興奮作用を有し、日本でも流通するフレグランス・パウダー(粉末)やリキッド・アロマ(液体)などのドラッグに含まれている。最近、αPVPの混入した危険ドラッグを使用後に車を暴走運転し、事故を引き起こしたという報道も目にした。インターネットを利用してαPVPが混入した危険ドラッグを購入し、事件や事故を生じさせるというケースが相次いでいる。

 最近では国内のいくつかの研究機関で危険ドラッグの成分分析が行なわれるようになったが、日本中毒医学会でも、種々の危険ドラッグからαPVPの検出報告例が認められるようになった。

 危険ドラッグは含まれている成分内容が不明であり、αPVPのような危険な成分が混入していても、それを知ることなく使用してしまうため、予想もしない極めて恐ろしい事態を引き起こす。

 私たちにとって何よりも大切なことは、危険ドラッグを購入しない、使用しないことであることは言うまでもない。また、インターネット販売に対する規制も強化する必要があろう。



連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

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