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【連載第4回 沸騰するアジア医療圏】

ITシステムで武装した韓国サムスン医療院の国際戦略

サムスン医療院の手術管理システム

 前回に引き続き韓国のサムスン医療院(三星医療院)について述べよう。

 サムスン医療院の傘下にあるサムスンがんセンターは、2008年1月に診療を開始。地上11階、地下8階、652ベッド(重患者室 40床、無菌室 36床、通院治療センター 67床)、20の手術室があり、単一の建物としてはアジア最大のがん専門治療センターであり、がん患者のための包括的な治療を実現しようとしている。

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 患者中心の医療サービスを徹底させるために、開院の3年前から選抜した中堅医療関係者の海外研修を行っており、患者の満足度が高いことでも知られる。さらに、日帰り手術(Day Surgery)をはじめ各種の先進医療技術を韓国で初めて試みることで、国内の医療業界に大きな影響を与えている。

 また、世界有数の資産運用企業ゴールドマン・サックスから支援を受けたプロジェクトをスタートすると発表したり、アメリカの医療機関メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)とMOU(覚書)調印するなど、企業マインドも旺盛だ。

ITシステムで武装した医療機関

 医療の輸出としては、傘下のサムスンメディカルセンターがドバイ福祉省と医療協力・相互交流のMOUを締結。①韓国での中東地域の患者の受け入れ、②サムスン医療院の医師が医師資格審査を受けずにドバイの3病院で診療と手術を可能にする、③医師の研修・教育を目的とした相互交流の検討、④電子カルテ事業を検討、といった契約を結んでいる。すでにサムソングループのサムスンSDSが電子カルテの開発を進めており、国内の一部の中小病院にも導入されているという。

 電子カルテのほかにも、サムスン医療院はいくつかのITシステムで武装している。その主眼はマネジメントに生かす、あるいは患者の利便性を向上させる、ということである。

 マネジメントに生かすという点で特筆すべきは、手術室の管理である。サムスン医療院のそれぞれの病院には、上記の写真のような管理室が手術室の清潔区域外に置かれて、遠隔手術や、執刀医への指導も可能となっている。

 さらに、電子カルテの普及は、患者の囲い込み戦略とリンクしている。電子カルテが普及すればオンラインでの患者照会システムが充実するので、それによって協力病院を増やしたいという意図もある。

 サムスン医療院は、韓国で初めて患者照会のためのウェブサイトを構築している。協力病院の医師は、依頼した患者の全ての診療情報をインターネットで共有することができる。さらに患者の情報だけでなく、サムスン医療院のスタッフ陣との自由な意見交換、コミュニティの構成、医学情報と教育ニュースなどを提供している。

 患者の利便性については、「Ubiquitous(U)Hospital(ユビキタス・ホスピタル)」とも呼ばれる、電子化を徹底したサービスが挙げられる。サムスン医療院は、2003年8月から、「Mobile Hospital(モバイル・ホスピタル)」と命名されたサービスをスタートし、医療者と役職員を対象に、スマートフォン(サムスン電子製のMITs 3300)によって音声通話サービスと診療情報を含む各種データサービスを提供している。これにより患者への対応が迅速になった。その一方で、直接患者にも、ネットでの予約システムや検査データの公開を行っている。

 なお、当初からサムスン医療院は「サムソンの実験場」といった位置づけで設けられたのではなく、日本の株式会社病院と同様、従業員への福利厚生にあった。このあたりも、急速に医療の産業化へ向けて舵を切る韓国の様子が見て取れる。

 韓国にはサムスン医療院のほかにも多くの巨大急成長病院が海外戦略を考えているが、それはまたの機会として、次回にはタイの状況について述べよう。

連載「沸騰するアジア医療圏」バックナンバー

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