『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』(星野史雄著/産経新聞出版)
このところインターネット上や出版の世界で闘病記が注目されている。医療現場でもその役割が注目され、看護学生や医学生のための教材として利用される場合も少なくない。医学的な知識もさることながら、患者の心理状態や日常的なケアのヒントとなるなど医師や看護師が患者への対応力を高めるためには非常に強力な情報源となるのだ。なにより、闘病記は患者やその家族が何を考えどんなことに悩みくるしむのか、その切実な気持ちがこめられている。
国立がん研究センターなどのチームがまとめた研究結果によると、がんと診断されて1年以内の患者が自殺や事故で死亡する危険性は、がん患者ではない人と比べて20倍以上になるという。その理由を正確には特定できないだろうが、診断が原因の心理的ストレス、病気や治療による生活の変化、体力や注意力の低下などが影響しているという。
この調査は1990年代に全国9つの府県に住む40~69歳の約10万3000人を2010年まで追跡調査・解析したもの。期間中に約1万1000人ががんと診断され、1年以内に13人が自殺、16人が事故で死亡している。自殺の危険性では、1年以内にがんと診断された人はがんではない人に比べ、23.9倍。また、交通事故や転落、溺死など、自殺かどうかは確定できない事故でも18.8倍となっている。しかし、診断から1年以上たった人では、がんでない人と比べてその危険度に差がなかった。
最新の医療技術のみでは解決できないがん医療
妻の乳がんをめぐる闘病を見つめ続けたことがきっかけで、インターネットでもアクセスできる闘病記専門の古書店パラメディカを開店した星野史雄さんは、「がんの初心者は、自分と同じがんの闘病記を三冊読むように勧めています。肝心なのは告知直後なのです。私が自殺率を下げるために必要と思うのは"がん友"。がんと告げられた後のショックや、治療への不安、死への恐怖を和らげるのは、同病者の友が最適なのです。身近に友が見つからなければ、本(闘病記など)の中に"腹心の友"を求めればいいのです」とする。
がんの告知をするべきか否か、この議論はすでにはるか昔のことのようだ。今では告知が当たり前。しかし、国立がんセンターによる研究の結果から、いかにがんの告知が患者に重くのしかかるかが見て取れる。
がんの告知とその直後の患者さんへのケアや支援はまだまだ十分とはいえない。しかし「このところ"がん友"や闘病記に対する、医療関係者の姿勢も変わりつつあります。私が知っている病院では患者同士を引き合わせるサロンのようなものを開く計画だそうです。闘病記文庫と、患者ボランティアの相談室を考えている病院も近くにあります」と星野さん。
最新医療では救いきれないがん告知直後の自殺。がん医療は科学的なアプローチだけではなく、人が社会の中に生きる生き物であることを前提にした多様なアプローチを含めるべきであることを改めて痛感させられる。
(文=編集部)