産婦人科は形成外科に次いで訴訟が多い(depositphotos.com)
2004年、福島県立大野病院で妊婦が死亡し、担当医が2006年に逮捕(業務上過失致死などの容疑、不起訴)され、産婦人科界を震撼させた大野病院事件が発生した。
日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会は、刑事訴追に対する意見書を発表し、懸念を表明。多くの産婦人科医師の心に深く刻まれる事件となった。
[an error occurred while processing this directive]日本の周産期医療の安全性はトップクラスだが訴訟が多い
産婦人科医師が訴訟に巻き込まれるリスクはどれくらいだろう? 産婦人科医師1000人当たりの訴訟件数は、形成外科7.1件、産婦人科4.8件。産婦人科は、全診療科で2番目に訴訟が多いことが分かる(平成28年 医事関係訴訟事件(地裁)の診療科目別訴訟件数)。
なぜ産婦人科医師は、訴えられやすいのだろう?
理由はいくつかある。胎児・新生児も妊産婦も若いため、死亡や後遺症による逸失利益が大きいこと、妊娠・出産は病気でないため、病気よりも過少評価されやすいこと、周囲の祝福・期待が強いため、受ける心理的な落差が大きいことなど、妊産婦や家族が納得しがたい不条理を感じやすいことから、提訴される確率が高まる。
一方、日本の出生数10万人当たりの周産期死亡率は2.6人、妊産婦死亡率3.5人。諸外国と比較しても、日本は周産期死亡率、妊産婦死亡率ともに低く、日本の周産期医療の安全性は世界的にトップクラスにある(厚生労働省資料「周産期医療体制の現状について」平成24年)。
ちなみに周産期は、妊娠22週から生後7日未満までの時期を指す。
1ヶ月の在院拘束時間305時間!1ヶ月の当直回数平均5.8回!
このよう不条理な訴訟リスクを軽減するために2009(平成21)年1月にスタートしたのが「産科医療補償制度」だ。妊娠・出産の何らかのトラブルがあれば、過失の有無に関わらず一定額の補償金が妊産婦に支払われる。ただし、現在は脳性麻痺だけが保障対象だ。
その後、産婦人科の訴訟件数は、やや減少したものの、水口病院事件(中絶後に死亡)、順天堂大学順天堂医院事件(無痛分娩による死産)などが発生。今なお産婦人科医師への不信感も、訴訟リスクも根強く残っている現実は変わらない。
産婦人科医師が直面している課題は何か? その現状を見よう。
産婦人科医師の1ヶ月の在院時間(通常の勤務時間+当直時間=職場の拘束時間)は305時間。過労死基準(月80時間の残業)をはるかに超えた勤務時間だ。産婦人科医師の1ヶ月当たりの当直回数は平均5.8回。内科3.2回、外科3.1回、救急科4.5回なので、産婦人科の当直の多さが分かる。交代制を導入している施設は全施設の6.4%のみ。交代要員の不在、24時間365日勤務は当然と考える無理解や偏見が交代制導入を妨げている。当直翌日の勤務緩和を導入している施設は23.1%に過ぎない。4分の3強の産婦人科医師は、日勤―当直―日勤の32時間連続勤務を強いられている。
産婦人科医師の過剰勤務、多忙、人手不足が窺えるが、過労死する産婦人科医師もある過酷な現状も見なければならない。