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がんは遺伝的変異別に治療する時代「免疫チェックポイント阻害剤」で世界の薬品会社が開発競争

世界の薬品会社が「免疫チェックポイント阻害剤」の熾烈な開発競争を続けている(depositphotos.com)

 近年、画期的な作用機序や高い治療効果、高額な薬価で注目を集める「免疫チェックポイント阻害剤」――。しかし「がん免疫療法」の有効性が確認され、臨床応用の道が大きく拓かれつつある。

 この有望な新市場の追風に乗ろうと、「小野薬品工業」「米ブリストル・マイヤーズスクイブ」「米メルク」「英アストラゼネカ」「スイス・ロシュ」「米ファイザー」と「独メルク」の5大陣営が熾烈な開発競争に突入し、しのぎを削っている。

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 がん免疫療法の未来を担う免疫チェックポイント阻害剤とは何だろう?

 ヒトの免疫系は免疫チェックポイント(検問所)の働きによって、T細胞などの免疫細胞の活性力にブレーキをかけ、免疫力のバランスを維持しているが、がん細胞は、このブレーキ機構を悪用し、免疫系の攻撃力を抑え込む。

 がん細胞のブレーキ機構を解除し、免疫細胞の働きを活発化して、がんへの攻撃力を回復させる抗体医薬(バイオマーカー)、それが免疫チェックポイント阻害剤だ。

 したがって、免疫チェックポイント阻害剤は、がんの発生部位にかかわらず、がんに特異的な遺伝的バイオマーカーとして働けば、T細胞の過剰な免疫抑制を解除し、抗がん免疫応答が増強されるため、がんの発生を効率的に抑制できる。

 このような免疫チェックポイント阻害剤の特性を示す発表があった。

 FDA(米国食品医薬品局)は、がんの発生部位ではなく、遺伝的要因に基づいて働く「抗PD-1抗体」の「キイトルーダ(ペムブロリズマブ)」を新たに承認したと発表した(HealthDay News 2017年5月24日付)。

 米メリックが製造するキイトルーダ(ペムブロリズマブ)は「ミスマッチ修復遺伝子」を標的として作用するので、今回の承認によって、がんの発生部位に関わらず、「ミスマッチ修復遺伝子」を持つがんならば、治療できるようになる。

 たとえば、従来から適応が認められている悪性黒色腫、非小細胞肺がんだけでなく、大腸がん、子宮内膜がん、消化管がんの他、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、甲状腺がんなどの「マイクロサテライト不安定性(MSI)」が高いがんや、「ミスマッチ修復欠損(dMMR)」があるがんを標的にできる。特に転移性大腸がん患者の約5%は、MSI-HまたはdMMRが認められるという。

 マイクロサテライト不安定性(MSI)とは、散発性大腸がんなどによってDNAの塩基配列のエラー修復機能が低下すると、1〜数塩基の短い塩基配列が繰り返すマイクロサテライトの塩基配列が正常組織と異なる反復回数を示す現象だ。

 FDA医薬品評価センター(CDER)のRichard Pazdur氏によると、これまでFDAは、転移性の悪性黒色腫、非小細胞肺がんなど、がんの発生部位別に個別に治療薬を承認してきたが、今回はがんのバイオマーカーである「ミスマッチ修復遺伝子」に基づいて承認したため、がん免疫療法の適応疾患をさらに拡大する画期的なワンステップになると説明する。

副作用が強く妊娠中または授乳中の女性は使用不可

 今回の承認は、15のがん種の患者149人を対象としたが、患者の40%に完全または部分的ながん退縮が認められ、そのうちの75%以上の患者に6カ月以上の治療応答が見られたという。

 今後は、治療後も他に選択肢のない進行がん、化学療法後に進行した大腸がん、手術で切除できない成人や小児のがん、転移した固形がんなどの治療に活用できるようになるだろう。

 ただし、キイトルーダ(ペムブロリズマブ)は、臓器の炎症などの重篤な副作用が強く、合併症のリスクが高いため、妊娠中または授乳中の女性は使用できない。

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