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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第31回】

DNA鑑定秘話〜日本人は元来、暴力嫌いの平和主義者!? 争いで死んだ縄文人は1%!

縄文人の死亡原因から驚くべき事実が(写真は国立科学博物館のHPより)

 タイムマシンがあれば、およそ1万5000年〜2300年前にワープして縄文時代に滑り込める。福島かどこかの片田舎で、汗しつつ逞しく生きる骨太な縄文人と鉢合わせするかもしれない。

 シカ、イノシシ、ノウサギに弓矢を放ち、追い立てる男たち。大海原に丸木舟で漕ぎ出しては、マグロ、ブリ、ヒラメに銛(もり)を打つ。森に分け入って、クリ、クルミ、キノコを拾うのは、女や子どもたちの日課だ。浜や川は、シジミ、アサリ、サケが面白いほど獲れる。竪穴式住居では土器や土偶を練るのに余念がない。石器で木の実や種を擦り潰しながら談笑する老親たちの血色もいい!

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 ムラ社会を作り、家族全員で生計を立てた縄文時代は、大自然と向き合う自給自足の循環社会だった。そんな縄文人の赤裸々な生きざまを目の当たりにするような、心躍る研究成果が発表された。

暴力沙汰で死んだ縄文人は23人!死亡率わずか1%!

 3月30日付け山陽新聞の報道によれば、岡山大学大学院社会文化科学研究科の松本直子教授(認知考古学)と山口大学国際総合科学部の中尾央助教(科学哲学)らの研究グループは、縄文人と欧米の先史民族の受傷人骨データから暴力による死亡率を分析し、英国の科学雑誌『Biology Letters』に発表した。

 その論文によると、全国の縄文遺跡から出土した縄文人の暴力による死亡率は、欧米の先史民族の5分の1以下のわずか1%台だった。この研究データは、何を意味するのか?

 古今東西、地上から戦争や紛争が途絶えたことはない。民族と民族の殺戮、狂気の大量虐殺、人間への抑圧、人権侵害、環境破壊が止む気配はない。人間が憎しみ合い、国家が奪い合うのは、飽くなき人間の本能や国家の深い利欲に根ざしている。

 人類の最大犯罪は戦争だ。戦争は、環境、文化、宗教、資源、社会システムなどの様々な要因によって誘発する――。だから、避けられない。克服も根絶もできない。そのような運命論的な論調、悲観的な観念、予断に立った常識が世界を支配しているように見える。

 だが、先の研究データは、戦争は必ずしも不可避ではなく、少なくとも日本人の祖先になる縄文人たちは、暴力や収奪を好まなかった事実の一端を裏づけている。

 研究データは、全国242カ所の縄文時代の遺跡から受傷人骨データ2582点を網羅的に収集し、体系的に算出したものだ。その結果、13遺跡の23体に何らかの武器で攻撃を受けた痕跡があった。だが、その死亡率はわずか1.8%、子どもを含めれば0.9%とさらに下がる。

 この死亡率は、縄文時代に匹敵する時代に狩猟採集していた欧米の先史民族の暴力による死亡率10数%と比べると、5分の1から10分の1の低さだ。

 このデータは、戦争や紛争の原因を究明する考古学や人類学が果たすべき役割や貢献度の高さも示している。欧米やアフリカでは、縄文時代と同じ狩猟採集時代の遺跡から、種族間の紛争よる大量虐殺の痕跡を残す人骨が発掘されることが少なくない。

 松本教授は「縄文期の日本列島は、狩猟採集できる食糧が広く分布していた豊穣の時代だった。人口密度も低く、集団間の摩擦が少なかった。人類が必ずしも暴力的な本能を持っていない事実を如実に示唆している」と分析している。

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