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がんの痛みの管理が成せた!? 新作発表後に “★になった”デヴィッド・ボウイさん

生前に撮影された“最後”の姿

 69歳の誕生日に3年ぶりの新作『★(Black Star)』を発表したデヴィッド・ボウイさん。その僅か2日後の1月10日、自身のFaceBook上で永眠が公表された。

 記された闘病期間は18カ月、仕事仲間の証言によれば、病名は「肝がん」。故人の「騒がれず静かに逝きたい」「葬式は望まない」の遺志を汲んで、ニューヨークで荼毘に伏され、彼の音楽と偉業の航跡だけが遺された。

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 「彼の死は、彼の生と何ら変わらない、一つの芸術作品だった」、結果遺作となった『★』を共同制作したトニー・ヴィスコンティ氏の追悼弁だ。

 ボウイさん自身が最新シングルの歌詞で<天にいる僕を見上げてほしい>と綴り、<今、みんなが僕を知る>と書いていた。かつて<空でStarmanが待ってるんだ>と歌った不世出な芸術家の見事な幕引きだった。

幕引きまでが一級の芸術作品

 昨年11月に“末期”と告白されたトニー氏には、亡くなる一週間程前に「もう一枚、アルバムを作りたい」と意欲的な電話(Facetime)をしていたという。12月7日にはミュージカル『Lazarus』の舞台挨拶に登壇するも「舞台裏では倒れていた」(舞台監督・談)。

 師走にボウイさんと会った映画関係者も「がん克服には前向きで悩んだ様子はなかった。延命に賭けて実験的な新薬を試す準備もしていた」と、現地紙に語っている。彼から余命を告白された人々の証言からは、最期まで前向きな姿勢が読める。

 1年半に渡る闘病期間中も、彼が新作を生み出す意欲を継続できた影には、優れた疼通管理が施されていたことは想像に難くない。がん患者の苦痛を緩和する最も大きな役割を果たすのが「医療用麻薬」だ。

 世界保健機関(WHO)はモルヒネなどの医療用麻薬の使用を推奨しているが、日本はその消費量が米国の水準の20分の1と少ない。医師、患者ともに「中毒を起こす」「次第に効かなくなる」などの誤解が根強く、がん性疼痛管理の“後進国”といわれている。

疼痛治療の後進国ニッポン

 学術誌『癌と化学療法』第36号に興味深い報告がある。再発進行がん患者85人を対象に「どのような疼痛管理が行なわれたか?」、その経緯を追跡調査し、患者自身と臨床医のやりとり(や医療用麻薬についての誤解など)が浮き彫りにしたものだ。その結果、「主治医の役割の重要性」を大いに喚起する画期的なものとされている。

 それによれば、がんに伴う痛みを持ちながら85人中11人は主治医に告げず、伝えた74人中21人は鎮痛剤を処方されなかった。処方された53人中、医療用麻薬を奨められたのは38人で、実際に処方されたのは27人に過ぎなかったという。

“いかに死ぬか”という死生観

 折しも新春早々の1月5日、一部の全国紙などに掲載された宝島社の2016年企業広告「死ぬ時ぐらい好きにさせてよ」が大きな話題を呼んだ。英国画家ミレイの傑作「オフィーリア」を元ネタに“いかに死ぬか”という死生観の訴求広告だ。

 モデルを務めたのは、自ら全身がんをカミングアウトしている樹木希林さん。『★』広告より3日先行の衝撃弾だった。希林さんは、インパクトある広告モデルの快諾理由をこう語っている。

 「死ぬということは悪いことではない。生きているのも日常、死んでいくのも日常。私はちゃんと見せていきたい。そういう事を伝えるのも死んでいく者の一つの役目かなと思って……」

 ボウイさんと同じ1月10日には、痩せ過ぎの容姿を隠さずがん公表後も堂々のTV出演で、最期までジャーナリスト魂を貫いた竹田圭吾さんも死去。その覚悟の幕引きは見事だった。

 そんな死生観をもつ人が増えている今、日本の疼痛治療に対して、後進性からの脱皮が問われている。
(文=編集部)

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