誰もが願う幸福で長生きshutterstock.com
年の初めに誰もが願う〝幸せで長生き〟。しかし、幸福度と健康状態や死亡リスクとの間に相関性はあるのか?幸福だと感じている人ほど長生きする、あるいは不幸だと感じている人ほど短命だというのは本当か? この半ば定説になりつつあるテーマに医学的な見地で切り込んだ研究がある。
オーストラリア・University of New South WalesのBette Liu氏らは、70万人超の英国人女性を約10年間追跡した研究成果を医学論文の発表媒体として世界でもっとも権威がある雑誌のひとつ、ランセット(2015年12月9日オンライン版)に報告した。
[an error occurred while processing this directive]健康状態が悪いと幸福度は低下するものの、幸福度が低いこと自体が、全死亡やがん死、虚血性心疾患(IHD)死などのリスクに直接影響するわけではないとしている。
約70万人の女性を10年近く追跡調査
研究の対象は、英国の経年的追跡調査研究(コホート研究)UK Million Women Studyに1996~2001年に登録された中年女性71万9,671人(年齢中央値59歳)。登録から3年後に実施された健康指標や食生活習慣等のベースライン調査で、心疾患や脳卒中、COPD、がんに罹患していない女性で、2012年1月1日まで追跡を実施した。
ベースライン調査では質問票を用いて幸福度を評価。「幸せを感じる頻度は?」という質問に対し,①ほとんどいつも②たいてい③時々④ほとんど感じない/全く感じない―のいずれかを選択してもらった。このうち③と④を「不幸」に分類している。さらに主要な疾患の有無や自己評価による健康状態を「極めて良い」「良い」「普通」「不良」に区分して質問している。
その結果、ベースライン調査時の健康状態が悪いことは、不幸であることと強く関連性を持っていたものの、不幸であることと全死亡リスクとの関連は認められなかった。さらに高血圧、糖尿病、喘息、関節炎、うつ、不安、社会人口学的因子および生活習慣因子(貧困、喫煙、BMIなど)で調整して解析した結果。不幸であることは全死亡、虚血性心疾患による死亡、がんによる死亡との関連性は見られなかった。
つまり、幸せと感じている女性と不幸と感じている女性との間に死亡リスクの差はないことが明らかにされたのだ。
Liu氏らは「中年女性において、健康状態の悪さは不幸な気持ちの原因となりうることが示された。しかし、その関連に影響しうる因子を考慮して解析したところ、幸福度そのものは死亡リスクに全く影響していないことが分かった」と結論づけている。
さらに、不幸だと感じていることが健康を悪化させると誤解している人が多いこと。不幸であると感じるのは喫煙や飲酒、肥満、運動不足などといった生活習慣因子に関連していて、こうした因子が間接的に健康状態を悪化させている可能性もあるとも指摘している。