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【連載「死の真実が“生”を処方する」第20回】

人の責任追及で医療事故は防げない!新しくスタートした「医療事故調査制度」とは?

医療事故調査制度とは?(shutterstock.com)

 この10月から医療法の改正により、「医療事故調査制度」がスタートしました。これまで、業務上過失致死傷等の罪名で警察による捜査が行われていた医療事故なども、この規定によって対応の仕方が変化する場合があります。改正医療法には、6条の10第1項として、次の条文が追加されました。

 「病院、診療所又は助産所の管理者は、医療事故が発生した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なく、当該医療事故の日時、場所及び状況その他厚生労働省令で定める事項を、(中略)医療事故調査・支援センターに報告しなければならない」

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 すべての医療機関において、診療行為に関する予期せぬ死亡が発生した場合に、まずは管理者(院長)が、その事実を第三者機関である医療事故訓査支援センタ―に報告します。もちろん、患者の家族にも起こった事実を説明します。そして、速やかに院内調査委員会を立ち上げ、院内調査を開始します。

 委員会のメンバーには、院内の関係者のみならず、外部の有識者も入ります。調査の過程では、解剖やCT検査での死亡時画像診断(Ai)などで死因が究明され、事故に至った経緯が調べられます。すなわち、診療録やそのほかの診療に関する記録の確認、当該医師からのヒアリング、医療機器や設備の確認などです。

 調査終了後は、その結果を家族に説明するほか、前記の第三者機関に報告書を提出します。なお、もし家族が院内調査結果を不十分と判断する場合や結果に納得がいかない場合は、第三者機関に依頼して再調査を行うことができます。

 つまりこの制度は、医療事故の原因究明、再発防止を目的とし、個人の責任追及ではないことから、院内調査を基本に制定されたのです。

どんな優秀な人でもミスを犯すことはある

 平成11年に、横浜市立大学附属病院で手術患者の取り違え事故、また、東京都立広尾病院では点滴の際に誤って消毒薬を注入する事故が発生しました。これを機に、医療安全対策の重要性が叫ばれるようになりました。

 医療に限らず、事故は複数のリスクが積み木のように積み重なって、不安定な状態にあるなかで起こります。もちろん、どんな優秀な人でもミスを犯すことはあります。したがって、ヒューマンエラーが事故につながらないような安全なシステムの構築こそが重要なのです。

 上記の事件では、医療従事者が、業務上過失致死等の刑事責任を問われました。さらに平成16年、福島県立大野病院で発生した出産後の女性の死亡事故では、執刀医が業務上過失致死等で逮捕されました。しかし、このような事態が“委縮医療”につながり医療が崩壊しかねない、個人の責任追及では事故の再発予防にはつながらない、などのことから医療界が大きく問題視しました。

 厚生労働省は平成19年から、「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を発足させ、医療事故が発生したとき、医療を理解できる専門家からなる公正・中立な第三者機関が、医療事故を調査するシステムなどの確立をめざして議論してきました。

 医療事故調査制度では、警察への届出に関する規定は一切ありません、しかし、医師法21条は「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と規定しています。「異状」の定義は法令には明記されていませんが、法医学的な異状と解釈され、平成6年に日本法医学会が定めた「異状死ガイドラン」が参考にされます。

 このガイドラインに「診療行為に関連した予期しない死に」が含まれているため、これまで診療行為に関する予期せぬ死亡を警察が捜査し、必要に応じて法医解剖がされてきました。この条文が残存する上に、さらに医療法による新たな規定が加わることで、現場での混乱が予想されます。

 この点について、前記医療法では、公布後2年以内(平成28年6月まで)に医師法21条による「異状死体」との兼ね合いを含め、医療事故調査制度の在り方を見直すことが決められています。

財政的支援がなく各医療機関が赤字に

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