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【連載第13回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

危険ドラッグの販売店は本当になくなったか? ネット販売は摘発してもイタチごっこ

危険ドラッグのネット販売の摘発は「イタチごっこ」が続くshutterstock.com

 漢方薬として日本でも広く知られている葛根湯(かっこんとう)、小青龍湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄湯(まおうとう)は、鎮咳去痰薬として広く用いられているが、その主成分はエフェドリンである。

 エフェドリンは、気管支を拡張して呼吸困難を改善するため、感冒薬や気管支ぜんそく治療薬として使用されている。しかし副作用としては、悪心、嘔吐、頭痛、振戦、口渇、幻覚、不安などの症状をきたすおそれがある。過量摂取すると致死的な不整脈が出現し、心停止をきたして突然死することもある。

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 日本で製造された葛根湯は、成分表示はもちろん、その用法・用量の説明も記載されているので、過量摂取さえしなければ特に問題はない。しかし、エフェドリンは、幻覚や精神錯乱を誘発する麻薬であるメタンフェタミンと化学構造式が類似し、覚醒剤の原料となる化学物質だ。エフェドリン濃度が10%以上に達すると、その物質は覚醒剤として扱われ、取り締まりの対象となる。

 つまり、医薬品と危険ドラッグとの紙一重的存在なのである。 

エフェドリンを含むサプリメントの恐怖

 中国や米国では、このエフェドリン含有物を補助食品(サプリメント)として流通している。たとえば、「エフェドラ」の名称で製造・販売されているダイエット薬は、医師の処方箋なしでも食料品店やインターネットで気軽に購入することが可能だった。

 しかし、エフェドリンの含有量が曖昧なエフェドラが多く、標準用量の記載もないため、重大な副作用をきたす危険性が高かった。米国ではこのサプリメントを、1990~2000年には1000万人以上が使用。この間、常用者に、運動後の突然死、心臓発作、脳卒中などをきたした症例が数多く報告され、エフェドラを禁止すべく社会運動が起こった。残念ながら、当時、ハーブ業界やダイエット業界が、政治家や官僚に対するロビー活動を展開し、米国食品医薬品局(FDA)などの行政機関を動かすことはできなかった。
 
 その後、先にこの欄で報告したように、2003年にメジャーリーガーのスティーブ・ベックラー氏がエフェドラによって突然死した。彼は104 kgの体重を減量して、活動性を高め、筋肉質の体を作るため、エフェドラの有害性を注意喚起したトレーナーの忠告を聞くことなく常用を続けた。その結果、スプリングキャンプでトレーニング中に突然倒れ、翌日、心肺停止で死亡した。

 彼の死後、家族がFDAなどの行政機関に提訴して、エフェドラがメジャーリーグでの使用禁止サプリメントと認定されるに至った。ただし、インターネットなどでの入手は依然として可能で、米国民の犠牲者は絶えなかった。

ネット販売のイタチごっこ

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