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【DNA鑑定秘話 第10回】

DNA鑑定秘話〜アメリカ炭疽菌テロ事件の犯人は、DNA異常の「消印」をたどっていれば逮捕できた!?

炭疽菌テロ事件でNBCニュースに送りつけられた封筒

 2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件が発生。その衝撃が覚めやらぬ9月18日と10月9日に、大手テレビ局、出版社、上院議員に、炭疽菌が入った容器を封入した手紙が届く。手紙には「次はお前だ すぐペニシリンを用意しろ アメリカに死を イスラエルに死を アラーは偉大なり」とあった。その後、炭疽菌による肺炭疽で5人が死亡、17名が負傷。アメリカ全土のみならず、世界中を震撼させた炭疽菌テロ事件だ。

 9月18日付消印がある5通の封筒は、トレントン局管内のポストから投函された。4通はニューヨークのモルガン局を経由し、NBCニュース、ABCニュース、CBSニュース、ニューヨークポストへ配達された。1通はフロリダ州ウエストパーム局を経由し、ボカラトンに本社があるアメリカン・メディア社へ配達された。

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 アメリカン・メディア社に届いた封筒に触れた写真編集員は、嘔吐と息切れを起こして卒倒し、10月6日に死亡。ニューヨークポストとNBCニュースに届いた1通は発見され、3通は開封者が炭疽菌に感染した。

 その3週間後、10月9日付でトレントンの消印がある封筒は、サウスダコタ州の民主党上院議員のトム・ダシュル上院多数党院内総務と、バーモント州のパトリック・リーヒ上院司法委員会委員長へ配達された。10月15日、ダシュル宛ての封筒は側近が開封した。封筒には高度に洗練されたシリカ状の純粋な炭疽菌胞子約1gが封入されていた。リーヒ宛ての封筒は、ZIPコードが間違っていたためバージニア州スターリングに配達され、郵便局員デビッド・ホースが炭疽菌を吸入した。

 炭疽症の原因細菌である炭疽菌は、学名を「バチルス・アンスラクス」という。バチルスは細菌の形が棍棒のような形をした桿菌、アンスラクスは木炭・石炭の意味だ。炭疽菌は、自然界に普通に存在する土壌細菌だ。皮膚炭疽に罹ると、炭のように黒い悪性のデキモノになる。芽胞状態の菌を吸い込むと、肺炭疽になる。致死率は90%だが、抗生物質で治療すれば治せる。各国の軍事機関は、第二次世界大戦後、生物兵器として炭疽菌の研究を進めてきた。

容疑者が自殺し、バイオテロは終息したのか?

 捜査には数百人ものFBI(連邦捜査局)捜査官が動員された。捜査範囲は6州に及び、事情聴取の対象者は延べ9000人以上、6000人に召喚状が発行せれたが、捜査は難航し、長期化した。

 2005年4月4日以降、FBIが容疑者を絞り込んだ。メリーランド州フレデリック市にある陸軍感染症医学研究所の科学者ブルース・エドワード・イビンズ。イビンズはアメリカの炭疽菌研究の第一人者だった。ジョージ・W・ブッシュの再選を推す熱心な共和党支持者で、ラビとイスラム教徒の対話を否定する過激なキリスト教原理主義者でもあった。真犯人なら動機は明確だ。

 だが、2008年8月1日、イビンズはアセトアミノフェンの大量服用で自殺した......。

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