支援ゲーム「SPARX」でうつ病の43.7%が回復。対面ケアと遜色ない有効性が認められた
いまや中高年のみならず若年層にも広がりつつある、うつや不安症――。この問題に対応するため、各国でさまざまな解決策が模索されている。なかでもニュージーランドの児童青年精神科医の率いるプロジェクトチームは、「ゲーム」を使ってこの問題の解決にあたっている。それがこの「SPARX (スパークス)」だ。
SPARXは、認知行動療法(CBT)の「無意識に起こる歪んだ考え方に気づき直していく」というプロセスをゲームに応用したもの。寛解率(ほとんど症状が見られなくなる率)は43.7%と、対面での治療と変わらない結果を残している。
[an error occurred while processing this directive]開発リーダーでオークランド大学(The University of Auckland)准教授のサリー・メリー氏は、SPARXが「青年うつ病の、12〜19歳のうつに対する標準的なケアと同程度に有効だった」と報告している。
ゲームとしても充実の内容
通常、このようないわゆる「学習ゲーム」は面白くないものが多い。だが、SPARXは十分に楽しめる内容だ。ゲームは7つのステージに分かれており、各エリアは通常30〜45分程度でクリアできるようになっている。これはちょうど、対面のカウンセリングにかかる時間と同程度だ。
プレイヤーはゲーム内のガイドに導かれ、世界を旅し、GNATSと呼ばれる厄介な考え方を退治していく。その過程で「深呼吸法」「怒りの管理」など、さまざまなCBTのテクニックを遊びながら学ぶ。
もちろん"学ぶ"といっても無味乾燥な画面ではない。3Dで構築された異空間を、ネイティブインディアンのようなガイドとともに多様なキャラクターと冒険する。そして、各所にパズルやクエストのような普通のゲームとしても楽しめる要素がふんだんに盛り込まれているのだ。
国連で受賞、スマホやアンドロイドでも公開予定
この画期的な成果によって、SPARXはユネスコ主催の「デジタル世界の展望」で「国際デザイタル賞」を受賞。「今後10年でもっとも有望なデジタルイノベーティブ」と賞賛された。
2011年には、「電子健康と環境」のカテゴリで国連の世界サミット賞を受賞している。これは、世界100以上の国・地域のメディアやデジタルコンテンツのなかから選ばれる、もっとも栄誉のある賞だといえる。これを機に欧州、アメリカなど、ニュージーランド以外の国でのローカライズや、日本を含む非英語圏での翻訳プロジェクトが進行中だ。まだ期日は未定だが、近いうちにiPhoneやアンドロイド版も発表する予定だという。
一方、ニュージーランド国内では、現住民族の少数派マオリ族のための「taitamariki」、同性愛の若者のための「レインボーSPARX」など、SPARXはいくつものバージョンに変貌を遂げながらさまざまな問題解決に役立っている。
あいにくSPARXは、ニュージーランド在住で医師から指示を受けた人しかプレイできないが、簡単な「うつ傾向診断」を利用することなら可能だ(英文)。興味ある方はチェックしてみるのもいいだろう。結果の程度によって、ホットラインの電話番号やサポートグループへの連絡先が表示される。開発者の「なんとかして若者を救いたい」という気持ちが表れているといえる。
若年化が進むうつや不安症。孤立する若者を救うために、一日も早く日本語にも対応してくれることに期待したい。
(文=編集部)
◉SPARX 公式ページ https://research.sparx.org.nz/