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【連載第3回 快楽はどこまで許されるのか? セックス依存という病】

"性依存"か"セックス依存"か? マスコミと医療関係者にある温度差とは?

性依存は「セルフコントロール障害」tang90246/PIXTA(ピクスタ)

 「有名男女『迷える下半身』私たちセックス中毒!」「3日も空けるとイライラ...... 男性タレントたちの間で『セックス依存症』が蔓延中か」「今どきの女たちはどこまで"SEX中毒"なのかを徹底分析『SEX依存症』とフツーの性欲のビミョーな境界線」

 いずれも雑誌記事の見出しだ。東京・世田谷の大宅文庫で「セックス依存症」のキーワードで検索すると、たちまちこのような記事が大量にヒットする。

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 しばしば「セックス依存症」は、メディアにおいて男性本位の好奇の目に晒され続けてきた。

 そんな日本での認知のなされ方に警鐘を鳴らすのは、榎本クリニック(東京都)の深間内文彦院長。2006年に日本初の性犯罪および性依存症者の治療グループを立ち上げるなど、性をめぐる問題に取り組んできた。

 深間内院長は、そもそも「セックス依存症」ではなく「性依存症」という概念を使用するべきだと説く。

 「日本で使われている『セックス依存症』という言葉は、性交渉や性行為そのものに没頭するという限定的なニュアンス。我々は"セックス"に限らず性に関連したさまざまな事象を扱うので、『性依存症』と呼んでいます」

 深間内院長は、マスコミが「セックス依存症=性欲の固まり」のイメージで取り上げたことで、興味本位の関心を集め、結果的に多くの誤解が生まれたことを嘆く。それでは「性依存症」をどのように捉えるべきなのだろうか。

 「現在、精神科の臨床現場で広く用いられる、『DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)』や『ICD(国際疾病分類)』といった国際的に用いられている診断基準には、性依存症のカテゴリーはなく正式な病名ではない。ただし、2013年に改訂された『DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、『パラフィリア障害群』というカテゴリーがあります』(深間内院長)

 これには、窃視・露出・窃触・性的マゾヒズム・性的サディズム・小児性愛・フェティシズム・異性装・他の特定されるパラフィリア・特定不能のパラフィリアなどの障害を含む。そして、「少なくとも6カ月にわたり性的衝動や行動が反復する」ことが診断の必要条件となる。 

 「パラフィリア」は、性的倒錯または性嗜好異常などと訳される。一方、榎本クリニックなどで対象にしている性依存症の概念は、これよりもやや広い範囲を含むようだ。

性依存症の定義と6つの特徴

 深間内院長は「精神医学で扱う対象は、正常と異常の境界が不明確なものが多い。性依存症の場合、次のような概念で括っています」と説明する。

 レイプ・強制わいせつ・ストーカーなどの触法行為以外に、頻回な風俗通い・売買春など不特定多数の異性との性的関係。出会い系やアダルトサイト、サイバーセックスなど、違法でなくともリスクがあることを承知しているにも関わらず性衝動をコントロールすることができない。

 結果的に、性感染症をはじめとするさまざまな健康障害、多額の借金、家庭崩壊など、精神的・身体的・社会的に破綻している。

 性依存症には、次の6つの特徴がある。

1.反復的である(繰り返し行なう)
2.衝動的である(スイッチがはいる)
3.強迫的である(その行為のことで頭の中がいっぱいになる)
4.貪欲的である(その行為を達成するために全精力を傾ける)
5.有害性がある(犯罪・あるいは自分も相手も傷つける)
6.自我親和的である(自己中心的な認識のズレがある)

 このように、性依存症者は自分の性欲や性衝動をコントロールできない「コントロール障害」ではあるが、ほかの依存症と大きく異なる点は、痴漢・レイプ・わいせつ行為・セクハラ・のぞき・盗撮・露出・小児性愛などの性犯罪につながりやすい点であるという。

 性犯罪は被害者に癒し難い傷をもたらす。一生そのトラウマに悩まされ、苦しみ続ける被害者が多く存在する。性依存あるいはセックス依存、名称によって微妙にニュアンスが異なっても、深刻な現実が横たわっていることに対して真剣に向き合い、考えていく必要がある。


連載「快楽はどこまで許されるのか? セックス依存という病」バックナンバー

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