特効薬はない、更生への賽を投げるのは自分 Sergey Nivens/PIXTA(ピクスタ)
4月28日、日本でのカジノ解禁に向けて、自民党、維新の党、次世代の党の3党がカジノ解禁法案を提出した。マネーロンダリングや治安維持など、周辺対策が不十分との声が高く、先の衆議院解散で廃案となった法案だが、3党は東京オリンピック・パラリンピック(2020年)までに、どうしても経済効果の大きいカジノを解禁したい意向だ。
反対意見のなかには、ギャンブル依存症者の増加を懸念する声が少なくない。ギャンブル依存症は、日本ではあまり身近な病気ではなく、自分には縁がないと思っている人は少なくないだろう。しかし、日本にカジノができたら、そうはいえない日が来る。
[an error occurred while processing this directive]5年で5倍のギャンブル依存症者を生み出したシンガポール
シンガポールは2010年にカジノを国内で解禁し、2つのリゾート・カジノをオープンさせた。その結果、同国ではわずか5年でギャンブル依存症者が飛躍的に増えた。
「私たちが毎週開くリカバリー(回復)・ミーティングには、5年前の約5倍の参加者が集まります。精神科の医療機関でも、治療を求めるギャンブル依存患者が目立って増えています」と、ギャンブル依存者のリカバリー活動を支援しているNPO「ワン・ホープ・センター」の代表ディック・ラム氏は言う。
政府が用意したギャンブル依存症対策審議会(NCPG)のヘルプラインには、2009年の設置時の約4倍、年間2万件以上の電話相談が殺到しているという。
そもそも、このカジノプロジェクトは、効果的に外貨を落とす外国人を誘致するのが目的だった。対象は外国人だが、国民に与えるリスクは高い。ギャンブルに依存症はつきものだからだ。
もちろん、シンガポール政府は国民をギャンブル依存に陥れることは本望ではない。カジノへの入場には、外国人は無料だが、国民は1日100シンガポールドル(約1万円)が課せられる。
しかし、一度カジノの味をしめた者にとっては、100ドルなどたいした金額ではない。一晩で何千ドル、何万ドルの金が動く。ビリオネラー(億万長者)も夢ではない世界だ。実際、「ワン・ホープ・センター」の患者には過去にビリオネラーを経験した人も少なくない。
ある男性は、数年前にビリオネラーとなった。誰もがうらやむリッチな生活も味わったが、生活はすぐに破綻した。「お金どころか、人生丸ごと"全て"なくした」と、深いさびしげな表情を浮かべる。近親者とも縁が切れたという。
それでも、「ワン・ホープ・センター」の名のとおり、希望を失わず、今はギャンブルをやめ、地道に働き借金の返済を続け、毎週のミーティングに定期的に通い、堅実に生きている。