「たかが腰痛」が健康への最大の脅威shutterstock.com
2013年に発表された米国ワシントン大学・保健指標評価研究所(IHME)と東京大学などによる共同プロジェクト「2010年の世界の疾病負担研究(GlobalBurden of Diseases2010,GBD2010)」で、日本における健康への最大の脅威は「腰痛」であることが明らかにされた。
このプロジェクトは、世界187カ国における死亡と障害の原因を、性別・年齢階級別に詳細に分析したもので、日本に関してはちょっと意外とも思える結果だ。
[an error occurred while processing this directive]日本では、がんや心臓病、脳卒中という3大死因にもっぱら目が向けられてきた。だが、死因になる疾病が、健康を害する疾病と、必ずしもイコールではない。健康寿命、つまり日常生活に制限なく、元気に暮らせる寿命に注目すると、見えてくることがある。
日本はまだ、現時点では平均寿命も健康寿命も世界一だ。しかし、2001年と2010年を比べてみると、平均寿命が女性では84.93年から86.30年へと1.37年延びているのに対し、健康寿命は72.65年から73.62年へと0.97年しか延びていない。男性の平均寿命は78.07年から79.55年へと1.48年延びたのに対し、健康寿命は69.40年から70.42年へと1.02年しか延びていない。
つまり、生きてはいるが寝たきりなど、日常生活に制限がある状態で過ごす時間が増えているということだ。
具体的には、2001年の女性では、日常生活に制限がある状態が12.28年(平均寿命84.93年−健康寿命72.65年)だったが、2010年には12.68年(平均寿命86.30年−健康寿命73.62年)と0.4年増加している。本人も周囲も負担が大きく、つらい時間がどんどん延びている。
長生きをしたい誰もが望んでいるのは、ただ死なずにいる時間の長さではないはずだ。人生を謳歌できる健康な状態が長く続くことを願っている。そうなると、死因になる疾病よりも、健康でいる時間を短縮する疾病に目を向けなければいけない。そして、日本人の健康を害しているのは意外にも「腰痛」という、あまりにも日常的で、ありふれた疾病だった。
あまりにも身近すぎる腰痛は治らないものなのか?
腰痛は国民病とすら言われるほど、日本人にとって身近な疾病だ。厚生労働省の調べでも、有訴者率、つまり何らかの自覚症状を持つ人が訴える症状の上位、男性では長らく腰痛が第1位、女性では肩こりに次ぐ第2位の座をキープしている。男性も女性もだいたい10人に1人が腰痛持ちだ。
医学が発達した現在の日本で、なぜこれほど腰痛を訴える人がいるのか? 大人が腰痛を話題にすると、「自分も腰痛持ちで......」と口にする人がわらわら出てくる。そして気づくのは、「腰痛持ち」と表現したくなるほど、長い間、腰痛である人が多いこと。病院に行っても治らず、整体に行ってみたり、鍼を打ってみたり、あれこれやってみても治らないという話が多いこと。
いったいなぜ、腰痛は治らないのか? そもそも、なぜ原因を特定できないのか? そこには医師と患者の考え方のすれ違いがある。次回はそのすれちがいに迫る。
森田慶子
森田慶子(もりたけいこ)
経験20年の医療ライター。専門医に取材し、その分野を専門外とする一般医向けに発信する医師向けの医学情報を中心に執筆。患者向けの疾病解説の冊子や、一般人向けの健康記事も数多く手がける。これまでに数百人を超える医師、看護師などの医療従事者から、最新の医学情報、医療現場の生の声を聞いてきた。特に、腰痛をはじめとする関節のトラブル、糖尿病、高血圧などの生活習慣病、うつ病や認知症などの精神疾患、睡眠障害に関する記事を多く手がけてきた。
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