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【医療用ロボットの進化と挑戦・第2回】

手術支援ロボットは「ダ・ヴィンチ」誕生までめまぐるしい進化を遂げてきた

バージョンアップを重ねる手術支援ロボット 「ダ・ヴィンチ」

 地球上に「ロボット」が初めて登場したのは1920年。チェコスロバキアの小説家カレル・チャペックが書いた戯曲『R.U.R.』に、その名が登場する。もちろん空想上の代物。「ロボット」はチェコ語の「強制労働(robota)」に由来する。「人に代わって労働するために人の姿に模して作られた存在」「与えられた目的を実行うする機械」、それがロボットの原型だった。

 では、医療用ロボットは、どのように現れたのか?

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 医療の究極の目的は、最小の低侵襲治療によって最大の治療効果を上げること。特に外科医にとって「低侵襲手術」は、患者の精神的・肉体的な負担を軽減させ、入院期間の短縮や医療費の抑制にもつながる。手術の高精度、操作性、視覚性、予知性を支えてきたのが、数々の医療用ロボットの開発と目まぐるしい進化だ。2012年の段階で、低侵襲手術用の医療器材の世界市場規模は約294億ドル。グローバルな治療需要の高まりに伴って、市場規模は2016年に403億ドルまで膨張すると見込まれ、2012年から2016年の5年間の平均成長率は約8.2%と予測されている。

各分野での医療用ロボットの歴史

 医療現場でロボット技術が初めて応用されたのは1985年。Yik San Kwoh博士らが産業用ロボットのPuma 200を利用して脳神経外科の生体組織診断を行った。Kwoh博士らは、CT画像で腫瘍の位置を特定した上で頭蓋に穴を開け、Puma 200の先端部に装着したプローブを挿入して腫瘍の生検を行った。外科手術は術者が行ったが、術者が使用するプローブの位置決めをロボットがアシストしたため、生検の時間が短縮し、精度が高まった。

 その3年後の1988年、ロンドン・インペリアル大学のDavies博士らは、Puma560の先端部に前立腺切除用のマニピュレータを取り付けて経尿道的前立腺切除を行った。尿道から挿入した内視鏡を用いて、ループ状の電気メスで肥大した前立腺を切り取る治療法だ。腹部に傷がつかない、内側から削るため痛みが少ない、尿道カテーテルを抜いた後、すぐに排尿が可能で、患者の退院も早い。術者の手術負担も軽減され、治療の精度も向上した。この前立腺切除は、同大学の研究チームによる経尿道的前立腺切除手術専用ロボット「プロボット(PROBOT)」の開発につながり、プロボットは世界初の「手術支援ロボット」の栄誉を授かった。

 時間は少し遡るが、1986年、IBMトーマス・J・ワトソン研究所とカリフォルニア大学デービス校の研究者たちが、全人工股関節置換術の手術ロボット「ロボドック(ROBODOC)」を完成させた。全人工股関節置換術とは、変形性股関節症や関節リウマチ、骨折などによって変形した関節を、金属、セラミック、ポリエチレンなどで製作した人工股関節に入れ替える手術。ロボドックは、コンピュータ制御によって大腿骨に人工股関節を挿入する穴を精確に開けることができた。整形外科に特化した医療用ロボットとしては、米国食品医薬品局(FDA)が初めて認証した手術支援ロボットである。

 1980年代から90年代にかけて、卓越した研究成果が次々と実を結ぶ。

 インテグレーテッド・サージカル・システムズ社がロボットアームと定位装置によって定位脳手術を支援するロボット「ニューロメイト(NeuroMate)」を発表したのを皮切りに、コンピュータ・モーション社が低侵襲手術用医療ロボットシステム「イソップ(AEsOP)」を開発。イソップは内視鏡を音声によってコントロールし、外科医の手の疲労や震えを改善するシステムとして高い評価を得た。さらに1998年、イソップのロボットアームに改善を加えた遠隔手術ロボットシステム「ゼウス(Zeus)」が誕生。ゼウスは人間の手や腕の動きをトレースして内視鏡を保持できるため、心臓、胸腔、脊柱などの外科手術に適した。

 一方、1987年に、スタンフォード大学放射線治療科のJohn R. Adler博士が製品化して注目されたのが、放射線外科用ロボットシステム「サイバーナイフ(Cyberknife)」だ。サイバーナイフは、放射線を作り出す小型の直線粒子加速器をロボットアームの先端部に取りつけたシステムで、任意の方向から人体に触れることなく放射線を照射できる。当初の適応範囲は頭部と頭蓋基底部の腫瘍の治療に限定されていたが、2001年にFDAが認証してからは、頭部以外のあらゆる部位の腫瘍治療に活用されている。

遠隔操作で手術する「テレプレゼンス・ロボット」

 めざましい開発ラッシュが続いた1980〜90年代には、ロボドックなどとは系列が異なる手術支援ロボットが世に出た。

 スタンフォード研究所インターナショナルは、戦場で負傷した兵士を外科医が遠隔操作で手術する「テレプレゼンス・ロボット」の研究に取り組んだ。これは、カメラ・マイク・ディスプレー・スピーカーによって、外科医と戦場や無医村の現場をリアルタイムにつなぎ、遠隔地からパソコンやスマートホンで操作する仕組みだ。外科医は、映像・音声のリアルタイム配信や大型ディスプレーを利用して、現場の状況を正確に把握しながら遠隔操作で手術を完了できる。

 スタンフォード大学のMadhani博士らは、このテレプレゼンス技術を応用し、遠隔操作型内視鏡手術支援ロボットの研究に没頭。やがて「ダ・ヴィンチ・サージカル・システム(da Vinci Surgical System)」の完成に至る。1999年1月に公表されたダヴィンチは、人間の手と腕を模倣して設計された最も先進的な内視鏡手術支援ロボットだ。外科医は、コントローラで超高解析度の3D映像を見ながら、わずか1cmの切開部から腹腔内に入れた小型のロボットアームを操作し、実際に自分の手で行なっているような直感的な感覚で精密・精確・安全に施術できる。ダヴィンチは腹腔鏡下手術ロボットとして、2000年にFDAの認可を得た。その後、胸部外科、心臓外科、泌尿器外科、婦人科でも認可され、治療精度の向上に多大な貢献を果たしている。

 ちなみに腹腔鏡下手術とは、腹部に数か所の穴を開け、内視鏡の一種である腹腔鏡を挿入し、モニター画像で内部を観察しながら、別の穴から挿入した手術器具を使って、切開、切除、吸引、焼灼、止血、縫合などを行う手術法。従来の開腹手術に比べて、創が小さく術後の疼痛が少ない、回復が早く入院期間が短いなど、患者の身体的な負担が軽いために、急速に普及した。

 今回は手術支援ロボットのルーツを探った。次回は、日本で活躍する手術支援ロボットのトピックを紹介しよう。
(文=編集部)

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