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【 連載第8回 遺伝子検査は本当に未来を幸福にするのか?】

検査コストを1万4400分の1にまで下げたヒトゲノム解析の新ムーブメント

遺伝子解析にかかる時間もコストもコンピューター技術の進歩で加速度的に低下した shutterstock.com

「20世紀科学の最高の発見」と絶賛されたヒトゲノム解析の偉業に、2007年、新たなムーブメントが起きる。それがGWAS(ジーバス/Genome-Wide Association Study =ゲノムワイド関連解析)だ。

 前回は、「ヒトゲノム(全遺伝情報)計画」の概要について紹介した。今回は、それを躍進させたGWASについて詳しく見ていこう。

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 GWASは、DNAチップを用いてゲノム配列の個人差や、疾病に関わる多因子形質と変異の関係を探りながら、疾病に関連する遺伝的原因を解明する解析法である。

 具体的にはどのような手法か? まず、ヒトゲノム上に存在する50~100万種のSNP(スニップ/一塩基多型)を位置マーカーとして使い、ヒトゲノム中に特定の個人の疾病に関連するSNPを見つけ出す。

 SNPは、遺伝子配列の中の1カ所の塩基だけが、他の塩基と置き換わっている塩基の変異だ。SNPは、薬の効きやすさや疾病のかかりやすさなどを決定する。したがって、SNPの近くに存在すると推測され、健常者群よりも患者群で高頻度に認められる疾患感受性遺伝子をリストアップして同定すれば、疾病に関連する遺伝的原因や候補遺伝子を解明できる。

遺伝子解析にかかる時間とコストの加速度的な低下

 たとえば、日本人に多い高血圧、糖尿病、冠動脈疾患の場合なら、主要なリスク効果をもつ複数の疾患感受性遺伝子を同定すれば、欧米人に共通する遺伝子、日本人あるいは東アジア人に特徴的な遺伝子、その両者に共通する遺伝子が見つけられる。

 このアプローチによって見つかった未知の疾患感受性遺伝子は、病態の理解を深めるのに役立つだけでなく、環境要因と遺伝要因の相互作用という観点から、ヒトゲノムの疫学研究にも貢献できる。現在、特定の50~100万種のSNPを解析できるアレイシステムが開発され、1人分のSNPを4~5日で検出し、同時に48人分を並行解析できる。

 このようなGWASの進展を背景として、米国では多数のDTC(消費者向け)遺伝子検査に挑むベンチャー企業が立ち上がった。以来10余年、遺伝子解析にかかる時間もコストもコンピューター技術の進歩で加速度的に低下した。

 米国立ヒトゲノム研究所によると、1人のヒトゲノムを解読するためのコストは、2001年9月の9530万ドル(約95億3000万円)から2012年10月の6618ドル(約66万1800円)へ、実に1万4400分の1にまでダウンした。米国では遺伝子解析は、一部のリッチ層だけでなく、一般人にも手が届く時代が到来した。このようなブレークスルーを好機に、台頭してきたのが、シリコンバレーのベンチャー企業「23アンド・ミー(23andMe)」だ。

 次回は、23アンド・ミーのDTC遺伝子検査サービスの真相に肉薄する。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。
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