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【連載第6回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

実録 危険ドラッグ 行きずりの男性とラブホテルで危険ドラッグを吸引した女性は......

女性の危険ドラッグ吸引には男の影がshutterstock.com

 危険ドラッグの吸引例のほとんどが男性だが、女性の症例が無いわけではない。しかし、そこには必ず男の影が見え隠れする。
 
症例1 道外から一人でやってきた20代の女性は会社員だった。繁華街で危険ドラッグ(RUSH)を購入。行きずりの男性とラブホテルに入って危険ドラッグを吸引した。眩暈、呂律難、過呼吸、手足のしびれ感、嘔気を訴えたため、ホテルの従業員を呼び出した。この間に同伴の男性はホテルから逃げ出した。駆け付けた警察官が救急車を要請し、警察官に付き添われて当院に搬送されてきた。

 病院で意識もうろうの状態が1時間持続したが、その後覚醒している。危険ドラッグの吸引を認め、現在I県では統合失調症で精神科の治療を受けており、「世の中が嫌になって、目的もなく突発的に汽車に乗って北海道に来た」と話した。路上で男性を誘ってホテルに入ったが、男性が危険ドラッグの吸入をためらったため、一人で使用したとのこと。酸素吸入、点滴などの治療で諸症状は改善した。警察官も身柄を拘束する必要はないとのことで、翌日退院した。 

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症例2 もう一人の20代の女性は大学生だった。統合失調症で治療中。彼氏が繁華街で購入してきた危険ドラッグ(商品名不詳)を女性宅で一緒に吸入した。吸入後に女性が痙攣、過呼吸、嘔吐を引き起こしたため、男性が救急車を要請した。当院に搬送されたが、男性は意識清明、女性はもうろう状態であった。女性の痙攣は収まっていたが、発語不能であったため、男性に問診したところ、以前にも2人で数回危険ドラッグを吸入したことがあったが、今回のような重篤な症状を呈したことが無かったとのこと。女性は6時間後に覚醒して翌日退院した。

「これを吸ったら気持ち良くなる」と勧められて

症例3 最後の20歳代女性は無職。うつ病で治療中。彼氏が購入した危険ドラッグを「これを吸ったら気持ち良くなる」と勧められて女性宅で使用した。嘔気、動悸などを訴え、もうろう状態になったため、彼氏が救急車を要請し、当院に搬送された。4時間後に意識清明となったため問いただしたところ、以前より危険ドラッグに興味があったが、初めて使用したところ刺激が強すぎて、かえって気分が悪くなったとのことで、「もう二度と吸入しません」と答えた。諸症状は改善して、翌日退院した。 
 
 危険ドラッグを吸入して当院に救急搬送された患者は、平成23年4月より翌年3月までに27例だったが、女性はわずか4例(14.8%、20歳代3例、30歳代1例)であった。平成23年の日本中毒学会評議委員会事例調査・研究委員会危険ドラッグ調査委員会の報告でも518例中女性は93例(22.3%)と当院での結果と類似していた。また当院での集計では、4例とも男性のパートナーの吸入時の存在が確認された。全例が統合失調症などにて精神科通院歴があり、独居中であった。
 
 吸入場所としては当院に搬送された27例中6例がホテル、うち5例は男性との情交前後に使用したことがわかった。漫画喫茶やインターネットカフェなどとともにホテルは閉鎖空間であるために、危険ドラッグ使用の温床となっているのが現状である。今後これらの施設に対しても十分な配慮および何らかの対策が必要だろう。 
 
注) 統合失調症:幻覚、妄想が特徴で他人との交流が障害されて、家庭や社会での生活が上手にできず、思考や行動が病気のために歪んでしまう。自分のことを振り返って考えられなくなる。慢性の経過をたどりやすいが、新薬の出現、社会心理学的ケアの進歩によって、長期的な回復が期待できるようになった。以前は精神分裂病と称されていた。


連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

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