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【連載第4回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

実録 危険ドラッグ 意識が朦朧としたまま車を運転し、河川敷で脱輪状態になった男は、、、。

 30歳代の無職の男性が、夜間、札幌市内をもうろう状態で30分以上運転し、河川敷で脱輪状態になり通行人に発見された。会話はできなかった。通行人が救急車を要請し、夜の10時45分に当院に搬送された。目立った外傷はなく、意識は混濁していた。体温36.1度、血圧、脈拍正常。頭胸腹部などの諸検査にて特に異常なし。補液などを行いながら経過観察をすると、約1時間後にやっと目が覚めた。

 問診すると男性は統合失調症で精神科に通い薬物治療を継続していた。この日はむしゃくしゃして数種類のベンゾジアゼピン系およびバルビツール系の薬を常用量の約3倍程度服用した。さらに問い詰めたところ数日前に繁華街のヘッドショップで危険ドラッグ(商品名不詳)を吸入し続け、当日も吸入して運転したと告白した。

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 さらに、過去に向精神薬を大量服用して数回病院に搬送されたことがあったともはなした。尿トリアージをしてバルビツール酸およびベンゾジアゼピンに陽性反応を示したが、危険ドラッグの検出は出来なかった。警察に連絡して状況を説明したが、危険運転の証拠が不十であるため、これ以上の介入は出来ないとのこと。翌日には意識がはっきりしてきたため、検査でそれ以上の所見が認められなかったため退院した。 

危険ドラッグの迅速判定キットが必要

 危険ドラッグを使用して街中を運転して、重大な自損、人身事故を引き起こす事例が後を絶たない。危険ドラッグを乱用して暴走しても、この症例のように現行犯として交通関係の法令で取り締まりを受けることを免れるケースも少なくない。また危険ドラッグの簡易測定法が実在しない現状では、本人の危険ドラッグ吸引の告白がなければ、向精神薬大量服用による急性中毒症として対処されてしまうことになる。 
 
 過去に数多くの向精神薬を大量服用して危険運転、街中での暴力行為、自傷事故などと対峙してきたが、この中には危険ドラッグの服用例も存在していた可能性も否定できない。また、もうろう状態、動悸、頭痛、吐き気などで搬送された患者さんの中には尿トリアージが陰性であったため、危険ドラッグ使用者を見逃してきたことも予想される。

 危険ドラッグを使用したという確定診断を得るためには、尿などをガスクロマトグラフィー/資料分析計(GC/MS)、液体クロマトグラフィー/資料分析計(LC/MS)など結果が得られるまでかなりの時間を要する。臨床の現場では、こうした検査法に頼ることなく、迅速かつ簡便に判定出来るキットがあれば対応が迅速になり、救命や症状の回復に繋がる可能性も高くなる。もちろん危険ドラッグを使用しての危険運転に対しは、より厳しく対応する道路交通法などの法整備も必要だと考えられる。
 

統合失調症:幻覚、妄想が特徴で、他人との交流が障害されて家庭、社会での生活が上手にできず、思考、行動が病気のため歪んでしまう。自分のことを振り返って考えられなくなる。慢性の経過をたどりやすいが、新薬の出現、社会心理学的ケアの進歩によって、長期的な回復が期待できるようになった。以前は精神分裂病と称されていた。
トリアージ:向精神薬大量服用患者が搬送された時に。尿などを検査すると、服用した薬物の種類がある程度判明する。ベンゾジアゼピン系、三環系薬物、バルビツール酸系、解熱役であるアセトアミノフェンなどの判別ができる。覚醒剤の検出も薬剤の種類によっては可能である。服用薬を同定できることによって、特定の治療法を決定できることがある。

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

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