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【連載第4回 ここまで治る! 放射線治療】

がんの脳転移は治療できる時代に~メスを使わないガンマ線での手術

ガンマナイフの父、ラース・レクセル教授

 病変部位に大量照射を行うもので、1回の照射で済み、小さい病変なら根治性も高く、しかも周辺の脳には優位の照射がなされない「Radio surgery(放射線手術)」といわれているのが「ガンマナイフ」である。

 ガンマナイフは1968年、スウェーデンのカロリンスカ大学 脳神経外科医であるラース・レクセル教授が開発した。頑痛(鎮痛薬では制御できない痛み)の患者の視床に、あたかもメスで切ったように6×4mmの破壊巣を作ったというのがその由来である。1990年、東大病院に日本の第1号機が設置された。2014年9月現在、53台のガンマナイフがわが国では稼動している。

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 2014年9月現在、世界には317台(279施設)のガンマナイフがあり、そのうちヨーロッパで51台、北米で130台が稼働。治療実績は、世界で約81万例、日本は20万例だ。

 ヨーロッパの51台に対して日本は53台を保有している。この数だけで、いかにわが国には数多くのガンマナイフがあるかがわかるだろう。日本の医療資源の豊富さの表れともいえよう。このことは、CTやMRIに関しても同様だ。日本には、大病院に限らず医院(クリニック)でもCTやMRIが設置されている施設がある。

ガンマナイフはパーキンソン病の治療が原点

 ガンマナイフは、パーキンソン病の患者に対して行われていた定位脳手術がその起源だ。定位脳手術とは、パーキンソン病患者の大脳の内側にある基底核や視床といわれる部位を小さく破壊することで、反対側の手足の振戦(不随意のふるえ)や固縮(筋肉のこわばり)を軽減させたり、消失させたりする治療法である。

 パーキンソン病の定位脳手術は、頭蓋骨に小さな穴を開け、その穴に細い針を差し入れて電極を送り込む。その電極の先端に高周波電流を流し、電気的に凝固させたり、同じ箇所に慢性刺激電極を埋め込むというもので、ミリ単位の正確さが求められる。この手術で、頭蓋骨に穴を開けずに同じ効果を得るため開発されたのがガンマナイフだ。

年間7万人以上がガンマナイフで治療

 ガンマナイフは、スウェーデンのエレクタ社でのみ製造されている。完全に独占企業といえよう。しかし、その本国スウェーデンには、カロリンスカ大学に1台あるのみだ。

 日本におけるガンマナイフ治療の累積(1991年から2013年)は、ガンマナイフの設置施設の増加と共に伸びている。医師および国民のガンマナイフへの理解が進んだことも、影響しているのだろう。日本では年間1.2万人以上、世界では7万人以上の患者が、ガンマナイフでの治療を受けている。これだけの治療実績があるので、各疾患で投与する放射線量の決定や重要組織の耐用線量の見極めは、いまや普遍的なものになっている。

 放射線治療は、いかに放射線障害を減少させるかが、大きな課題だ。ガンマナイフ治療は原則1回の大線量照射だが、副作用を最小限に留める努力も必要である。

 対象疾患の内訳は、悪性腫瘍が約70%、良性腫瘍が約20%、血管疾患は8%、その他2%。悪性腫瘍の大半を転移性脳腫瘍が占めているが、これは転移性腫瘍が増加したわけではない。がんの脳転移は、もはや治療できる時代になったということだ。


連載「ここまで治る! 放射線治療」バックナンバー

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