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【連載「グローバリズムと日本の医療」第16回】

9月入学・始業はICTの拡充とセットにして初めて効果がある

大きく遅れるICT環境の整備

 9月入学・始業は、政府がICT(情報伝達技術)基盤を拡充し、オンライン授業を積極的に推進することとセットになって初めて功を奏する。2019年12月31日に最初に流行が確認されたCOVID-19(いわゆる新型コロナウィルス感染症)は世界を未曽有の危機に陥れている。これを悲観的にとらえるのではなく、プラス思考で考える。人が英知を出し合えば、大きな危機をひっくり返して大きな機会にすることもできる。COVID-19で危機的状況にある公教育の立て直しに9月始業・入学が検討されている。

単に9月入学・始業にすれば問題が解決するわけではない

 9月始業・入学を開始する時期が問題だ。2020年4月22日時点で、全国の小中学校の95%、高校の97%が休校となっている。教育の遅れを取り戻すために高校生がネット上で9月始業・入学導入への賛同を呼びかける署名活動も活発に行われている。では、2020年9月から新学期が始まればこれまでのような教育が受けられるのか。それは幻想にも似た、あまりにも楽観すぎる期待ではないだろうか。

 9月までに安全な治療薬やワクチンは開発されないだろう。新型コロナウィルスはほぼ半月ごとに変異し、2020年5月の時点ですでに17種類もあるという。アメリカのトランプ大統領は、1兆円以上の資金と軍も動員して「ワープスピード作戦」と、とにかくスピードを重視しているが、それでもワクチン開発の目標を年内においている。専門家は科学的知見に基づきワクチン開発に1年以上はかかると警告している。

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 そのような中で2020年9月に「新学期」を始めても、感染の第二波に襲われ再び休校となることも十分予想できる。冬になりインフルエンザの流行と重なれば医療崩壊の危機が再来する。現在、政府は2021年9月入学、今年度は1学年を17か月にする案を中心に検討している。つまり、来年度の新入生は2021年4月ではなく2021年9月に進級・入学し、現在の学生は2021年3月ではなく2021年8月に進級・卒業することになる。この案には賛成だ。ただし、治療薬もワクチンもない今秋以降の状況を考えれば、2020年9月までに全国津々浦々、すべての公立学校においてオンライン授業ができる基盤を整える、ということとセットにするという条件付で。

全く成果を上げていない「E-ジャパン構想」

 2000年9月21日、衆参両院本会議における所信表明演説において森喜朗内閣総理大臣は「E-ジャパン構想」を提唱し、「学校や公共施設の高速インターネットを整備するとともに、全国民がインターネットを使えるよう一大国民運動を展開」すると述べた。

 20年後の現在、全国で約2万5千校ある公立小中高校で同時双方向型のオンライン指導を実施している自治体は5%ほどしかない。韓国では、休校中に小中高校生に28万台以上の情報端末を貸与し、低所得世帯にはインターネット通信費の支援を行った。日本でも早急に義務教育におけるインターネットの無償化、端末の配布・貸出、教員へのオンライン授業講習などを実施すべきだ。

「我々の目指すべき『日本型IT社会』は、全ての国民が、デジタル情報を基盤とした情報・知識を共有し、自由に情報を交換することが可能な社会」とし、「五年後には我が国を世界の情報通信の最先端国家に仕上げてまいります」という森元首相の決意に言葉だけではなく本当に真剣に取り組んで実行に移すべきだ。

 資金・人材不足や現場の重い労働負荷等、障害を探せばいくらでもでてくる。COVID-19という危機をばねにして、困難を乗り越えることができるのか、それともここで諦めてしまうのか。まさに今、日本は岐路にたっている。

連載「グローバリズムと日本の医療」バックナンバー

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