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【シリーズ「本能で楽しむ医療ドラマ主義宣言!」 第26回】

それぞれ医療ドラマが佳境に、高畑淳子が見せつけた圧倒的な演技力

画像は『アライブ』(フジテレビ系)の公式HPより

沢山ある新春医療ドラマも中盤から佳境に入ってきました。毎回のことながら、主題歌とドラマの雰囲気もマッチしてきました。曲が流れ始めた瞬間に、うっ!っと涙が……。

 私の一番お気に入りは三浦大知の『I`m Here』(『病院で念仏を唱えないでください』)。透き通った三浦大知の声と、ドタバタの中にも涙と一筋の光がさしてくるような松本照円(伊藤英明)の存在を盛り上げる感じと、もしかしたら良いことが起こるかもと思わせてくれるような歌です。

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 須田景凪の『はるどなり』は『アライブ』のために書き下ろされただけあって、とってもしっとりと悲しげ。そして『トップナイフ』には昭和な踊りの『STAYN` ALIVE』。応援ソング感が強い気がしますが、歌詞は深めで前向き。どの曲も将来聞いたら、「これ何のドラマの主題歌だっけ?」としまうことは間違いなしでしょう。

患者産の人生を大きく変える救急医の初期治療

 さて、毎日いろいろ見ております私。あまり好きではなかったけど好きになってきたドラマが『念仏』です。実は松本先生の煩悩にふけるあたりが若干見ていて心地よくなかったのですが、回を重ねるごとにあの煩悩に煩わせられる感じが、人は完璧ではなくてよいということの象徴なのだ、ということがじりじり伝わってきて、心地悪さを超えていきました。毎回、伊藤英明のごつい指と右第4、5指のマレットフィンガーのような変形がどうしても気になってしまうのですが、分厚いからだと角ばった顎はいい!

『念仏』で主役の救急医は、初期治療を受け持つ医者であり、通常は慢性疾患の治療や緩和治療はしません。医者で救急医、そして人の死にも向き合うチャプランである松本先生の正論と、三宅先生(中谷美紀)のドライな救急医の正論の大激論は案外、深い内容で、さらにどちらにもうなずけます。救急をやっていると、その人の人生までは関われないことが多い。命を助けても、救命後は専門科に転科していきますので、最終的にはその後の長い治療を診ていた医者が担うことになります。命を救ったという自負を持つ救急医のことを救われた患者さんは覚えていないことだってある。

 でも、救急の初期治療がその後の患者さんの人生を大きく変えることは、容易に想像がつきます。救急隊が到着するタイミングで人の生死が決まることがあるように……。

救命と最善の治療の間で揺れ動く救急の現場

 医者4年目の頃、上腕の怪我で救急搬送された若者がいました。その初期治療に当たった医者は上腕の再接着ができる医者を捕まえることが出来ず、その時の最善の判断で上腕の再接着は行われませんでした。義肢になった方が、その後のADLが高いことだってあるし、再接着が最善の治療かどうかはわかりません。でも、それを見たときに、私は自分の判断で人の人生を変えてしまう医師という仕事について色々と考えました。

 外傷や救急の現場では最善というよりも命が最優先になりますから、ここにも困難が生まれることもあります。今でも、ふっと思いにふけることがある経験の1つです。

 そして、救命と喧嘩ばかりしている心臓外科医の浜田(ムロツヨシ)。実は政治的な動きをみせつつも小児の心臓にはこだわりを持っている。いろいろな意思をもった医者が個性たっぷりにいるのが『念仏』ですね。後半戦では松本医師と浜田医師の関係性が変わってきそうですね。

『アライブ』は医療提供者目線? 患者目線では共感できるのか?

そして“できる医者”がテーマの『トップナイフ』。これぐらい、レアな症状を出してこないとドラマティックにはなりづらいのでしょう。地道ながん医療を描く『アライブ』と比較すると、症状がダイナミックで、かつ謎に満ちている方がドラマとしては面白いのか?できる医者が謎解き風に診断をして治療をしていく軽快さは医療ドラマの鉄板でしょう。

 最近は、数回目となってきたアライブを見ていて、オンコロ先生の患者に対するICの仕方が妙にドライ、そして取ってつけたような感じに聞こえてしまうのですが……私だけ?わざとドライな態度を表現しているのでしょうか。

 がん治療真っ只中の患者さんの気持ちは、健康な私には絶対にわかりません。化学療法の副作用である気持ち悪さ、身体の痛さ、つらさ、不安。絶対わかる、なんて言えません。がんを患うご家族を介護したからって、わかるものでもないと思っています。このドラマ、今がんと闘っている方々はどんな気持ちで見るのだろう?見る必要もないし、見ないのかも。

 このドラマは医療提供者目線では、とても共感して見られますが、治療を受ける側の目線ではどうなんだろう。そう思い始めると、どうやって見たらいいのかちょっと混乱してきてしまいました。

 そんな中、第9話のアライブで、「医者はがん患者さんの伴走者」という言葉が出てきました。このドラマの大きな軸はここにあったのかと急に腑に落ちてしまった私。病気になることに理由なんてなく、だれの責任でもありません。病気とともに生きる道を伴走者としてとことんお供することが出来る……、そんな風に医者をとらえたことはありませんでした。

 医師として、沢山の方々と出会いと別れを繰り返してきました。まだ医者としても人として未熟だった、or未熟者である私は、アホな発言はしていないであろうか。私は医師としてきちんとその方の人生に伴走できているのであろうか。

 1話完結型のアライブですが、初めから通して、高畑淳子扮する民代さんの息をのむ圧巻の演技が、素晴らしく光っていましたね。
 一言一言が深く、涙なくしては見られませんでした。毎週、腹水を抜いては元気になり、お酒を飲むのが楽しみだ、と語っていた患者さんのことを思い出さずにいられませんでした。
 後半のアライブ、医師が患者になったとき・・・が描かれるのでしょうか?(勝手な予想)。
(文=井上留美子)



井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。

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