蚊に刺されやすいのは「中間所得層」だった(depositphotos.com)
薫風爽やかな季節――。鬱陶しいのは、紫外線、熱中症、汗、そして「蚊」だ。蚊は生きる場所を選ばないが、蚊が「刺したい相手」を選ぶとなれば、安閑としていられない。蚊が大好きな相手は、誰だろう?
米ケアリー生態系研究所のShannon LaDeau氏らは「蚊に刺される確率は、地域の所得水準によって異なる可能性がある」とする研究論文を『Parasites & Vectors』4月10日オンライン版に発表した。
[an error occurred while processing this directive]LaDeau氏らは、米メリーランド州ボルチモア市の5つの地域で約2年間をかけて捕獲した2万匹以上の蚊から採取した胃の内容物のDNAを解析し、最後に吸った血液を調べた。その結果、判明したのは――。
世帯収入の中央値が約2万6000ドル(約280万円)の「低所得地域」は、蚊の数は多かった。しかし、空き地や手入れが不十分な庭など、蚊の繁殖に適した場所が多いため、捕獲されたヒトスジシマカが吸った血液の70%以上はネズミの血液。人間の血液の割合は約6%と低かった。
一方、世帯収入の中央値が約5万6000ドル(約600万円)の「高所得地域」は、捕獲された蚊の数は最も少なかったが、ヒトスジシマカが吸った血液の約50%は人間の血液だった。
そして最終的に判明したのは、「人間が最も蚊に刺されやすい」のは、世帯収入の中央値が4万1000ドル(約440万円)の「中間所得地域」だった。
なぜ世帯収入の地域差によって、上記のような「蚊に刺されやすさ」の違いがあるのか?
蚊の標的になりやすいのは人間かネズミか?
LaDeau氏は、その違いを以下のように説明する。
「『低所得地域』の住民は、暖かい日に玄関前の階段や舗装された場所で過ごし、蚊やネズミが集まりやすい空き地で過ごさない。『高所得地域』の住民は、蚊の多い庭や公園などの緑地で過ごし、『中間所得地域』の住民も蚊が繁殖しやすい庭などで過ごすため、蚊に刺されやすい」
さらに「今回の知見は、新たなウイルスがどのように拡散するかの予測に役立つだろう。『低所得地域』でネズミを駆除すれば蚊の発生を抑えられるか、蚊の標的がネズミから人間に移るのかは分からない」と述べている。
また、米国感染症学会(IDSA)の会員で蚊媒介感染症の専門家であるDuane Gubler氏は、以下のように解説する。
「ヒトスジシマカなどのヤブカ属の蚊が多くを占めるボルチモアでは、ネズミを減らしても蚊が減少しない。ヤブカ属の蚊は、遭遇したどんな動物でも吸血の標的とする。蚊が発生しやすいかどうか、人間が蚊の標的となりやすいかどうかは、地域の環境や住民の行動が決める」
そしてGubler氏は、蚊の発生(そして蚊を媒介とした感染症)を抑える得策は、「家の周辺の水たまりをなくす」「外出時に長袖や長ズボンを着用し虫除けを用いる」「空き地の水たまりがあれば、地元の公衆衛生当局に連絡する」などをアドバイスしている。