なぜアルツハイマー病の「新薬開発」は失敗するのか?(depositphotos.com)
最近、アルツハイマー病の新薬開発が足踏みしている。注目されていた2種類の新薬の臨床試験が相次いで失敗に終わったからだ。
まず、アルツハイマー病患者に対する選択的セロトニン5-HT6受容体拮抗薬の「イダロピルジン(idalopirdine)」の有効性が示されなかったとする臨床試験の結果が『Journal of the American Medical Association(JAMA)』1月9日号に発表された。
[an error occurred while processing this directive]その後、イーライリリー社が開発をめざしていた抗アミロイドβ(Aβ)抗体薬の「ソラネズマブ(solanezumab)」も認知機能の低下の有意な抑制は示されなかったとする臨床試験の結果が『New England Journal of Medicine』1月25日号に発表された。
新薬の臨床試験が失敗したのはなぜか?
ソラネズマブは、アルツハイマー病に関係するとされる脳のアミロイドβと呼ばれるタンパク質に結合するため、アミロイドβが脳に蓄積する前に除去できるとされてきた。
これまでのアルツハイマー病の治療や予防を目的とした薬剤のほとんどは、ソラネズマブに見られるように、主にとして患者の脳内に蓄積するアミロイドβを標的にしていた。だが、米メイヨー・クリニックのRonald Petersen氏によると、アミロイドβを標的とした薬剤の臨床試験の多くは、開始時にアルツハイマー病患者の脳内に沈着しているアミロイドβを正確に調べる判定法がないため、死後に剖検で確認する他なかった。
現在は、画像検査(アミロイドPET検査)で測定できるが、アルツハイマー病でも脳内に高レベルのアミロイドβの蓄積が認められない患者が約30%もいる。Petersen氏は「アミロイドβを標的とした治療薬の臨床試験で対象者の30%に蓄積したアミロイドβがないのであれば、その臨床試験は成功するはずがない」と強く主張する。
米ケンタッキー大学准教授のMichael Murphy氏は「アミロイドβの除去がアルツハイマー病を改善するという前提を再考する必要がある。遺伝学的根拠からアミロイドβがアルツハイマー病に関与していることは確実だ。しかし、発症してからアミロイドβを取り除けば患者の状態が良くなるのかどうかは分からない」と説明する。
これまでの研究がアミロイドβを標的としていたのはなぜか?
米アルツハイマー病協会(AA)のJames Hendrix氏によれば、10年前はアルツハイマー病の研究資金が潤沢でなかったため、最も有望視されたアミロイドβを集中的に研究せざるを得なかった。だが最近は研究資金が拡充され、アミロイドβ以外にもタウやニューロンの炎症、脳のエネルギー利用などの多因子の研究が進んでいる。
Hendrix氏は「アルツハイマー病を発症しても、記憶力を維持したまま他の疾患で死亡するまで進行を遅らせることができれば、治療の成功といえるだろう」と語っている。