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【インタビュー「性差医療をめぐって」第1回 静風荘病院・天野恵子医師】

<性差医療>っていったい何? 心筋梗塞や動脈硬化でも男女で症状に違いがある!

現在「女性外来」は日本国内ででは300を超える(depositphotos.com)

 「性差医療」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

 実は、病気の発症やメカニズムには、男女で大きな差がある。婦人科系疾患などはもちろん、例えば心筋梗塞や動脈硬化など、男女共通の臓器でこれまであまり性差が考慮されてこなかった疾患でも、病態に性差があることがわかってきている。

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 原因や症状が異なれば治療法も異なり、性差を認識したうえで対処する必要がある。日本ではまだ新しい概念だが、米国では90年代から、国の支援のもとに性差医療(Gender-specific Medicine)」の取り組みがなされてきた。

 昨年4月には日本でも日本性差医学・医療学会が<心臓病の男女差にもっと注目するよう求める声明>を公表した。ここにいたるまでには長い道のりがあった。その道をまさに切り開いてきたのが天野恵子医師だった。

同級生から相談を受けた原因不明の「胸部圧迫の痛み」

 天野氏は現在、静風荘病院(埼玉県新座市)で「女性専用外来(以下、女性外来)」を担当している。「女性外来」というと「産婦人科」と混同されがちであるが、ここでは「紹介状は不要」「症状を問わない」「初診は30分以上かけて話を聞く」をモットーに、幅広い年代の女性の健康相談と治療を行っている。

 「私の専門は循環器内科です。循環器内科の患者さんを診察していて、男性と女性では症状の出方が違うとうことに気づいたのが、性差医療を立ち上げた原点となっています。そのエビデンスを集めたくて女性外来を始め、患者さんたちはどんなことで困っているのかを聞いてきました」

 天野氏が性差医療に取り組むきっかけとなったのは、高校時代の同級性からの相談であった。当時、天野氏は東大病院の循環器内科に勤務しており、高血圧や狭心症、心筋梗塞、心臓肥大、心臓弁膜症などの治療を得意としていた。

 その女性は、総研会社の総合職としてキャリア人生を邁進中で、40歳にして子会社の社長に内定し、夜間のビジネススクールにも通う忙しい日々を送っていた。しかし、ちょうどそのころから、胸の中央が圧迫されるような痛みに悩まされるようになったという。

 血管を拡げる作用のあるニトログリセリンでは効果はみられず、できる限りの検査をしても原因がわからない。天野氏は「忙しすぎるのではないか」と休養を勧め、結局、彼女は「診断がつかない病気を抱えている」という不安から社長就任を辞退し、ビジネススクールも止めた。

 彼女の胸痛はしばらくすると治まったが、天野氏はこの症状が心にひっかかり、海外の文献を調べ続けた。すると、1985年の米国循環器学会で、「微小血管狭心症」なる症状が報告されていることがわかった。

 微小な血管の狭窄や収縮異常によって起こる狭心症で、更年期前後の女性によくみられるという。微小な血管は心筋の中を通って心筋細胞に栄養と酸素を補給しているので、大きな「冠動脈」の造影では見逃されてしまうし、太い血管を拡張させるのに使うニトログリセリンでは拡張しない。観察しているうちに、実際にこうした症状を抱えている女性が多いこともわかってきた。

 天野氏は「微小血管狭心症」の存在を多くの医師に話し、研究の必要性を訴えた。しかし、当時の医療は「生きるか死ぬか」に焦点がおかれており、命に係わるわけではなく、しかも女性特有の症状に関心が払われることはなかった。「それならば自分が発信していくしかない」と強く思ったという。

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