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【連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」」第16回】

「がん対策基本法」は改正されたが……<ボランティア精神に依存>する本末転倒の「患者支援」

がん対策基本法で「がん相談支援センター」が開設されたが……(shutterstock.com)

 昨年末、がん患者が安心して暮らせる社会を目指す「がん対策基本法」の改正案が成立した。

 2006年の「がん対策基本法」が施行されて以来10年、患者や家族らを取り巻く状況は変化してきた。今回の改正案は、さらに現状に対応すべく、がん患者が安心して暮らせる社会環境の整備が狙いだ。

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 がんになっても雇用を続けるよう事業主に求めるほか、がんという病気に対する偏見をなくすための学校教育・社会教育を推し進め、希少がんや難治性がんについても研究を促進することが明記された。

 がん対策基本法では、がん医療の「均てん化」を目的として、全国の都道府県に「がん診療拠点病院」が認定された。がん患者支援としては「がん患者の療養生活の質の維持向上」「がん医療に関する情報の収集・提供体制の整備等」がうたわれた。

 具体策は地方自治体(都道府県、政令市)に委ねられており、各地方自治体は「がん対策推進計画アクションプラン」を策定している。

 がん診療拠点病院は、がん患者支援対策の中で通常の医療サービスに含まれない「こころの支援」に一歩踏みだす契約で行政からの補助金(税金投入)を受け、「がん相談支援センター」を開設。がん患者の「こころの支援」のための「がん患者会とのパートナーシップ」をうたっている。

 しかし、病院側と患者会の連携・協力はうまく機能しているだろうか? 補助金支援の前提条件であるため、書面上、がん相談支援センターが開設されたがん診療拠点病院では、患者会との連携が稼働していることになっている。

 だが、現実的には、書面通りに機能しているがん相談支援センターは、いったい日本にどれほどあるだろう?
 
 そもそも、都道府県や政令市が策定した「アクションプラン」を実質的に担うべき市町村レベルの市長・副市長あたりがどの程度理解しているのかに疑問がある。いわんや、市町村の社会福祉課や市民協働課といった部署の行政官たちががん対策基本法自体を知らないことすら少なくないのが現状である。

 こんな状況では、患者・市民が立ち上がろうとしても、なかなか先に進めない――。

 本格的な「こころの支援」を実践するには、経費も人材もノウハウも必要だ。しかし、拠点病院のがん相談支援センターの多くには、そのいずれも乏しい。たとえば、愛知県では、がん診療拠点病院あたりの補助金額は当初年間1500万円だったが、現在は、ほぼ半減している。

 この程度ではすべて人件費で消えてしまうだろう。そして、病院に協力する母体となる患者会には、原則としてボランティアによる連携が求められる。実際、担い手となる患者会に直接、経済的援助をしている病院は少数に過ぎない。

がん患者たちの不安軽減につながっていないのはなぜか?

 日々苦しむ患者の不安軽減につながる本物の支援に至らないのは、いったいなぜだろう?

 がん患者会は、任意団体かNPOとして運営される。会員制による年会費、寄付金や助成金が運営資金である。活動の場から見ると、病院内で運営される患者会と病院から離れて地域社会の中で活動する患者会の2つの形がある。いずれも、活動費は不十分なことが多く、会員のボランティアに依存する面が強い。

 病院内に開設されている「患者サロン」には問題点が少なくない。患者サロン活動に関する会議には、交通費が出るが、給与はないし、自宅での通信費も自前といった場合が少なくない。

 先輩患者による仲間(ピア)のためのサポート(ピア・サポート)は、医療への貢献というボランティア精神に依存しているのが現実である。がん診療拠点病院の相談支援センターのスタッフは間違いなく有給だが、経験不足の彼らが患者サポート機能を十分果たしているとは限らない。

 法に基づく国のがん患者支援策ができて、補助金が投入されているのに、そこに貢献する先輩患者(ピア)の負担はほとんど軽減されない。

 いや、がん患者会との連携・パートナーシップ構築が、がん診療拠点病院に法的に義務づけられているため、患者会の病院への協力の期待度は高まる一方である。でも、相変わらず、資金援助のないボランティア活動のままである。

 なぜ、患者会がそこまでしなければいけないのか? いったい、がん対策は誰のためなのか? がん患者自身が医療や社会に貢献することががん対策なのだろうか?

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