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【シリーズ「AIと医療イノベーション」第9回】

AI(人工知能)が医師の仕事を奪う? 診断支援システムが実現すれば「総合診療医」になれる!?

AI(人工知能)が医師の仕事を奪う?(shutterstock.com)

 日経デジタルヘルス(2016年10月14日)によれば、オンライン病気事典「MEDLEY」や遠隔診療サービス「CLINICS」を提供する医療系ベンチャー、メドレーの沖山翔氏(執行役員/救急救命医)は、10月11日に東京都内で開かれたイベント「AI(人工知能)の今と未来、エンジニアの将来を考える」で講演し、AIが医療にもたらすインパクトを語った。

 沖山氏は、2016年6月にスタートした「症状チェッカーbot」を例に挙げ、AIへの取り組みを解説した。「症状チェッカーbot」は、自分の症状を入力するだけで、症状と関連性の高い疾患や疾患に対応できる病院をFacebook Messengerを使って、対話形式で検索できるサービスだ。

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症状を入力するだけで、疾患や病院をスピーディに検索できる「症状チェッカーbot」

 検索の流れは、こうだ。

 たとえば、「せき 発熱」と入力する→自動対話プログラム(bot)が「ほかにどのような症状がありますか」「どのような発熱の状態ですか」と疾患を絞り込む質問をする→「痰がからむ 熱38度」などと質問に回答する→MEDLEYが登録している1400件以上の疾患から関連性の高い情報をスピード検索する→かぜ、気管支炎、肺炎、インフルエンザなど、該当する疾患を高頻度順に表示するという仕組みだ。

 しかも、年齢、性別、季節ごとの疾患の可能性の違いにも対応する。たとえば「30代 男性」と設定すれば、かぜの次に気管支炎が表示されるが、「80代 男性」と設定すると、肺炎が上位になる。冬ならインフルエンザがより上位に表示される。

 また、それぞれの疾患に対して受診すべき診療科を表示したり、その診療科のある最寄りの病院を探す機能もある。たとえば、「東京都中央区にある病院のうち、◯◯病に対応できる診療科があり、かつその専門医のいる病院」などのように希望通りの病院を検索できる。

 このように「症状チェッカーbot」は、独自のアルゴリズム(問題解決の手順)を駆使したAIを搭載しているため、「Facebook Messenger」を使って対話するだけで、探したい疾患や病院の検索を簡単にスピーディに検索できるのだ。

診断支援システムが実現したら、AIは「総合診療医」になれる!?

 しかし、沖山氏によると、「症状チェッカーbot」に搭載したAIは「これが予想される疾患の候補です」「○○科にかかった方がいいですよ」という医療への入り口を限定的にアドバイスするに過ぎないので、確定診断はできない。「症状チェッカーbot」 を確定診断に応用するためには、心音、心拍数、レントゲン、血液検査などの情報も統合化する必要がある。

 将来、AIによる診断支援システムが実現すれば、患者も医師も多大な恩恵を受けるだろう。たとえば、医師なら当直などで勤務時間が長くなると、診断精度が必然的に落ちるが、AIが「これを見逃していませんか?」「この疾患の可能性はありませんか?」などと提示すれば、医師の確定診断に役立つはずだ。

 ただ、現実はまだ厳しい。IBM Watsonは、過去の膨大な文献や年間20万件もの学術論文のビッグデータを用いて遺伝子情報などを解析するものの、さまざまな臨床データや患者の病態を考慮した「痒いところに手が届く」総合診療医のレベルにはもちろん達していない。

 沖山氏の印象では、WatsonなどのAIは、たとえばコシヒカリとササニシキの違いは判別できても、小麦の判別はできない。AIの課題は、医師のような専門性と汎用性を融合できるように進化を遂げることだ。

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