夜間頻尿で死亡率が2倍も高くなる!(shutterstock.com)
毎日新聞医療プレミア『病気を知るDr.堀江重郎の健康羅針盤 本当は怖い頻尿の話』によれば、就寝中にトイレに起きる回数は、50歳以上の中年以上なら1回が標準。だが、3回以上起きる「夜間頻尿」は、高齢者の寿命を縮める可能性がある。夜間頻尿の人は、70代なら男性のおよそ30%、女性のおよそ15%と高い。
北欧の高齢者グループを4年間にわたって追跡調査した疫学研究によると、夜間頻尿の人は、夜間頻尿でない人よりも、およそ2倍の高い死亡率を示している。しかも、高齢者が夜中に何度も起きてトイレに行けば、転倒して骨折するリスクが高まり、骨折による肺炎を併発しやすくなる。
[an error occurred while processing this directive]睡眠中の呼吸障害が引き起こす危険
高齢者だけではない。20代、30代、40代でも、夜中に必ずトイレに起きる人は、酷いいびきをかいたり、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群に罹っている恐れがある。
いびきは、睡眠中に気道が狭くなるため、空気が通る時にのどが振動して音が鳴る状態。睡眠時無呼吸症候群は、10秒以上の無呼吸の状態が、1時間に5回以上または7時間の睡眠中に30回以上ある疾患。いびきや睡眠時無呼吸症候群の主因は、扁桃肥大(へんとうひだい)のほか、肥満、アルコール依存、仰向けの睡眠姿勢、加齢、鼻詰まりなどだ。
このような睡眠中の呼吸障害が長期間続くと、ストレスによって交感神経の緊張が強まるため、高血圧や心疾患を合併し、睡眠不足による交通事故などを起こす危険性がある。
また、夜中は日中よりも尿量が少なくなる。だが、糖尿病、心臓病、腎臓病に罹ると、夜中の尿の回数も、尿量も多くなる。夜間頻尿は、重大な疾患を警告するSOSなのだ。ちなみに、1日の排尿回数は4~8回程度、1回の尿量の平均量は200~400ml程度だ。
おしっこが近いのは「膀胱の動脈硬化」という排尿障害
なぜ夜間頻尿という排尿障害が起きるのだろう? まず排尿の仕組みをざっとおさらいしよう。
尿は、ウエストまわりの背骨を挟んで左右に1つずつある腎臓で作られる。大人なら毎日約1.5tもの血液が腎臓に運ばれ、腎臓は血液から老廃物を濾過し、必要な栄養分を再吸収する。余分な水分や老廃物は尿管を通って膀胱に運ばれて尿になる。大人なら1分間当たり約1cc、1日当たり約1000~1500ccの尿が作られる。
膀胱は、伸び縮みするので、尿がない時はしぼんだ袋状だが、尿が増えると丸く脹らみ、最大600ccの尿を溜める。膀胱に尿がおよそ半分程度(約150cc)溜まると、膀胱の筋肉が感知した圧力信号が脊髄から脳に伝わり、尿意を感じる。尿意を感じると、脳の排尿命令が脊髄から膀胱と尿道に伝わる。
尿道の付け根にある蛇口のような尿道括約筋が、尿を排出するかしないかを制御している。尿意が強まり、尿道括約筋が緩んで尿道が開くと、膀胱の排尿筋が収縮するので、ポンプのような仕組みで尿が排泄される。
腎臓から膀胱までの排尿の仕組みに男女差はないが、尿道の構造に違いがある。つまり、男性は尿道が長く、L字型に曲がっているが、女性は尿道が短く、まっすぐ下に伸びているため、頻尿や尿失禁(尿もれ)を起こしやすい。
このように尿を十分に溜め、尿をスムーズに出す仕組み、それが排尿の働きだ。
夜間頻尿などの排尿障害は、尿が十分にたまらないうちに尿意を急に感じる過活動性膀胱のほか、回数が増える、夜中にトイレに起きる、尿が細い、力まないと出ない、排尿に時間がかかる、残尿感があるなどの諸症状が現われる。
尿が十分にたまらないうちに尿意を急に感じる過活動性膀胱が起きるのは、膀胱の筋肉が硬くなると、尿が少し溜まっただけで膀胱内の圧力が高まるからに他ならない。つまり、膀胱の筋肉が硬くなる、いわば「膀胱の動脈硬化」によって血液の流れが悪化すると、尿が近くなる。さらに、糖尿病に罹ると、血流と自律神経の伝逹が悪化し、神経が過敏になるため、尿意を感じやすくなる。膀胱の動脈硬化は、血液の流れが悪くなれば、心臓や脳が心筋梗塞や脳梗塞を起こすのと同じ理屈だ。
さらに、尿意を感じやすくする要因がストレスだ。強いストレスを受けると、交感神経は尿意を強め、膀胱の尿の出口と尿管を締めるため、排尿障害につながりやすい。