Googleやゴールドマン・サックスなど多くの外資系企業が企業研修に導入(shutterstock.com)
瞑想、呼吸、ヨガなどによって雑念を捨てる。意識を集中して精神力をコントロールする。ストレスに負けないマインドを培う――。そんなロバスト(頑強)なメンタル・エクササイズ、それが「マインドフルネス」だ。心理学的治療の一つで、「マインドフルネス・ストレス低減法」ともいう。
日本マインドフルネス学会は、「マインドフルネスとは、今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずにとらわれのない状態で、ただ観ること」と定義している。
[an error occurred while processing this directive]本サイトの『マルチタスクは古い? ジョブズやジョーダンも愛好した瞑想は“マインドフルネス”で実現』で紹介したように、Google、インテル、Facebook、ゴールドマン・サックス、マッキンゼー&カンパニーなど多くの外資系企業が企業研修に導入。スポーツ界でも重用され、リオ五輪では各国の競技チームがマインドフルネスを取り入れ、好記録やメダルにつながった。
最近はニューヨーク・タイムズやザ・ワシントンポストなどの有力メディアが特集を組み、ニューヨーカーなどのビジネスピープルのホットなメンタルメソッドとなっている。ハーバード大学などの多くの有名大学は、心理学教室にマインドフルネスセンターを開設し、心理的な悩みを抱えた市民たちが、ビジネス、マネー、経済、家庭、人間関係などの問題解決プログラムに真剣に取り組んでいる。
琴奨菊の「琴バウアー」もマインドフルネス
このように米国ではトレンディなメンタルメソッドとして定着しているが、そのルーツは意外に新しい。
1960年代、東洋の禅を体験した分子生物学者のジョン・カバット・ジン博士(マサチューセッツ大学名誉教授)は、国際観音禅院の崇山行願に師事。仏教の瞑想から着想を得て、禅の修行法と西洋科学を統合、1979年頃から「瞑想しながらをストレスや悩みを緩和するマインドフルネス」を実践し、しだいに欧米社会から裾野は広がっていった。
日本マインドフルネス学会の越川房子理事長(早稲田大学文学部長)によれば、マインドフルネスは、ストレスや悩みの緩和だけでなく、新しいアイデアの創造、ダイエットやスポーツにも効果が高いという。
たとえば、2016年1月、大相撲初場所で日本出身力士として10年ぶりに優勝した琴奨菊関だ。精神的な脆さに悩んでいた琴奨菊関は、取り組み直前に上半身を反らす「琴バウアー」を取り入れた。マインドフルネスなどのメンタルトレーニング指導の第一人者である東海大学高妻容一教授のアドバイスが奏功し、自分のコンディションに集中しながら、ベストパフォーマンスを発揮できるように一変した。
科学的に実証されたマインドフルネス
マインドフルネスが普及した要因は何か?
越川理事長によると2点ある。第1にJ・D・ティーズデールやJ・M・G・ウィリアムズなどの高名な心理学者が理論的な枠組みと実証データを明示した点。第2に脳の神経可塑性の解明など、最新の脳科学の進歩によって、マインドフルネスが脳の機能と構造を変化させる仕組みが明らかになった点だ。つまり、瞑想、呼吸、ヨガなどのマインドフルネスを実践すれば、不安感やストレスが軽減する事実が科学的に実証されたのだ。
この事実を裏づけるデータがある。『Neuroimaging』(2011年)によれば、MRI(磁気共鳴画像診断装置)を使った研究では、マインドフルネスを続けると、左海馬や側頭頭頂接合部の灰白質(かいはくしつ)の密度が増加した。感情をコントロールする左海馬は、うつやPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると萎縮する。側頭頭頂接合部は思いやりや共感を司っている。
また、『Clinical Psychology Review』(2013年)によれば、209の研究に基づく延べ被験者数1万2000人のデータをメタ分析したところ、マインドフルネスは心理的な不安感、うつ、ストレスの減少に効果があることが確認された。
マインドフルネス瞑想で「心の筋肉」を鍛えよう
マインドフルネスを実践する方法はいろいろある。たとえば、1日5~10分さえあれば、誰でも手軽に実践できるのが呼吸瞑想。呼吸瞑想は、自分の呼吸に意識的に注意を集中する瞑想法だ。早速やってみよう。
①背筋を伸ばしてイスに座る。足を肩幅に開き、肩の力を抜く。
②視線を斜め前に落とす、または目を閉じる。
③自然呼吸し、注意を呼吸に向ける。
④注意がそれたことに気づいたら、何に注意がそれたのかをそっと心にメモし、注意をまた呼吸に戻す。①~④を5~10分間、繰り返す。
コツは、息を吸った時に、お腹の皮が上がり、皮膚が少し引っ張られる感覚を感じること。息を吐いた時に、お腹の皮が緩む感覚を感じること。ただ、呼吸に意識を集中していても、さまざまな雑念が湧いてくる。そのたびに、呼吸に意識を戻すのがポイント。上手にやろうと思わずに、好奇心をもって続けることが大切だ。
つまり、「雑念が浮かぶ」→「浮かんだことに気づく」→「何が浮かんだかを心にメモして淡々と繰り返す」。筋トレで腹筋を鍛えるのと同じように何度も繰り返して訓練をすれば、心の筋力が鍛えられる。心の筋力が鍛えられれば、日常生活や仕事の場面でも、態度や気分をコントロールしやすくなるので、会社の人間関係から生じるストレスも軽減できるだろう。
越川理事長によれば、人間は自分に合わない考え方や発想を受け入れにくく、無視や拒絶をしがちだが、マインドフルネスで心の筋肉を鍛えれば、何が起きているかを好奇心をもって見るようになるため、新しい価値観や創造性が養われ、睡眠の質の改善やダイエット効果にも役立つという。
マインドフルネスを実践すればするほど、ストレスが低減され、免疫システムが強化されるだけでなく、精神力もQOL(生活の質)も高まるだろう。
日本マインドフルネス学会のHPを見れば、マインドフルネスを体験できるイベント講座が開催されている。マインドフルネス瞑想をサポートするスマートフォンのアプリもある。興味があれば、活用してみよう。
ちなみに、『成功している人は、なぜ神社に行くのか?』(八木龍平)は、自然が豊かな神社は、そこに居るだけで心が穏やかになるため、神社で瞑想することを奨めている。手や口を洗う、玉砂利を踏む、「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」の祝詞(のりと)を唱える。六根とは、目、耳、鼻、舌、身、意(潜在意識)のことだ。神社の境内で心身を祓い清めれば、マインドフルネスの効果がさらに強まるような気もする。神社で瞑想! いかがだろうか?
(文=編集部)