<できる人>は「週25時間労働」?(shutterstock.com)
政府は、ワーク・ライフ・バランスの観点から、国家公務員の働き方改革の一環として、夕方には仕事を終える「ゆう活」を提唱している。
日照時間が長い夏に、早めに仕事を切り上げて、生活を豊かにしよう、という取り組みだ。夕方に終えるといっても、労働時間が短くなるわけではない。朝早めの出勤に前倒しする、リフレックスタイム制である。
[an error occurred while processing this directive]内閣人事局によると、霞が関で働く職員、約4万5000人のうち、「ゆう活」にのっとり出勤時間を早め、夕方までに退庁できたのは約1万8000人。昨年より3000人近く増えているという。
実働時間が変わらなくても、働き方次第で人は「QOL(生活の質)」の向上を感じられるものなのだ。
さらに実働時間が短縮できれば、私たちは、もっとQOLを向上できるようだ。
オーストラリアのメルボルン応用経済社会研究所の発表によると、40歳を超えると、週25時間以上の労働は、疲労感や心身のストレスを引き起こしやすくなるという。
同研究所は、40歳以上の6000人以上の労働者について、労働時間が認知機能に及ぼす影響を調査した。その結果、もっとも適した労働時間は、週25時間以下だったのだ。残念ながら、パートタイムやアルバイトでなければ実現できない短さだが。
同研究チームのリーダーであり、慶応義塾大学で教鞭を執るコリン・マッケンジー教授は、「中高年の労働者にとって、働くことは、脳の活性化や、認知機能の再構築に良い」としつつ、「(40歳を過ぎたら)脳は、使うか失うかだ」とも述べている。
働き過ぎが、脳の働きにダメージを及ぼすのは、容易に想像できる。だが、なぜ40歳なのか、そして25時間なのか。
ストレス過多を避けたい40歳の壁
「40歳の壁」は、マッケンジー教授によれば老化に伴う知能の低下が関係するという。
知能は、心理学的には「流動性知能」と「結晶性知能」の2つに大きく分けられる。
流動性知能とは、柔軟な思考能力といえるもので、新しい環境下で、「どうすればいいか」と考える能力である。この知能のピークは、20歳前後とされている。
結晶性知能とは、技術や知識、経験によって得られる固定的な知能だ。これは、30歳を過ぎると、低下し始めるとされる。
大半の人が、40歳を迎える頃には、そのどちらの知能も明らかに低下し、記憶力や情報処理能力、頭の回転の速さも衰えてしまうという。
しかし、世界的に退職年齢が伸びている昨今、40歳は働き盛りのピーク。しかも、上司と部下の狭間で、いわばサンドイッチ状態。生物学的にも精神的にも、もうタフではない年齢がゆえに、ストレスもピークだ。
神経学的に、ストレスが認知機能に影響を及ぼすことは広く知られている。ステロイドホルモンやコルチゾールなどのストレスホルモンを通じて、短期記憶、集中力、抑制、合理的思考などを低下させるのだ。
40歳を超えると、プライベートでも親の介護と子育てに挟まれる可能性が高く、公私ともに、サンドイッチ世代だ。40歳という年齢が、そろそろ働き方をゆるめよう、というターニングポイントであることは、心しておくべきだろう。