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【連載「Universal Jintai Japan(UJJ)=人体迷宮の旅」第1回】

【閲覧注意】ずらり並ぶ難病・奇病の実物標本。近代医学の光と闇が見える世界最高峰の人体博物館「ムター・ミュージアム①」

全身の脂肪が石鹸状なった女性のミイラ、画像はモザイク加工をしたもの The Soap Lady~ the Mütter Museum

 人体標本や医学博物館、解剖図、標本模型などが地球規模で秘かなブームとなっている。「人間とは何だろう?」という根本問題は、哲学的、思想的、文学的な枠にとどまらず、物質としての人体についても長い歴史の中で探求されてきた。そして、グローバル化が進む現在、人体こそが、人類共通の物質的な属性として、言語や文化的な背景を超えて、共有し得る関心事となっているのかもしれない。

ヨーロッパで流行した「驚異の部屋」とは?

 第1回は、アメリカ近代医学の発祥地といわれるペンシルヴァニア州フィラデルフィアにある医学博物館の先駆「ムター・ミュージアム」を訪ねてみよう。

 ムター・ミュージアムは1858年、ジェファーソン医科大学のトーマス・デント・ムター(Thomas Dent Mütter)博士が、その引退を機に個人所有の医学標本をフィラデルフィア医師協会(The College of Physicians of Philadelphia)に寄贈したことから始まる。ミュージアムは一般公開されており、150年におよぶ医学の歴史を一望できる世界屈指の専門博物館として人気があり、隠れた観光スポットしても知られ、年間の来場者数は6万人以上ともいう。

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 所蔵コレクションはその後も増え続け、ヨーゼフ・ヒルトル(Joseph Hyrtl)博士が収集した139個の世界の頭蓋骨コレクションをはじめ、ホルマリン標本、ワックス標本、骨格標本を中心に、難病、奇病、奇形児など本物の人体、精巧な模型がずらりと集められている。歴史資料としても貴重な数々の医療器具も含め、いまやその数2万点以上にもなる。

 設立の目的は、医学教育の促進と医療の進歩への貢献を目指した真摯なものである。特に映像技術が乏しかった時代には、実物の標本や精密な立体模型は医学を学ぶ際には非常に重要であった。今となっては、時代がかった医学標本類にグロテスク趣味やホラー感覚を読み取ってしまう人もいるだろう。たしかに一般観光客の中には、見世物的な気分からミュージアムを訪れる人も多いようだ。

 このような医学博物館ができる以前、15〜18世紀にかけてヨーロッパでは、驚異の部屋(Cabinet of curiosities,Wunderkammer)と呼ばれる貴族たちの個人コレクションがもてはやされていた。15世紀に始まる大航海時代を背景に、世界中の珍妙なものを収集して自慢することが流行したのだ。その中には、医者が個人的に収集していた医学標本なども多く含まれていた。

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