遺留品から全てがわかる(shutterstock.com)
「犯罪現場では人と人、人と物のあいだで、必ず証拠が交換される」――エドモンド・ロカール(フランスの犯罪学者)
地球は広いが、文明との接触を拒むアマゾン奥地の未開部族でも丸裸で暮らしている人はまずいない。ましてや、犯罪を企てる不逞の輩が下着や衣服を身につけずに犯行に及ぶとは、まず考えにくい。
[an error occurred while processing this directive]愉快犯ならいざ知らず、犯罪者なら警察の捜査の手から逃れるためにすることは、ただひとつ。犯行現場に指紋や遺留品などの証拠を残さないことだ。だが、犯行を隠蔽しようとトリックを小細工しても、完全犯罪は成り立たない。なぜなら、仮に素っ裸のまま犯行に及んだとしても、本人が知ろうが知るまいが、体からタンパク質や脂肪などの有機物が抜けたり、剥がれたり、飛び散ったりしてしまうからだ。毛髪、フケ、体毛、垢、爪、汗、唾液、血液、体液、そして、犯人が身に着けていた衣服の繊維も……。
犯行現場を見渡せば、どのように証拠隠滅を図っても、犯罪者は目に見えない夥しい痕跡を残したまま、逃走している。だれも科学捜査(成分分析)の厳しい網の目をくぐることはできない。
犯罪者が残すまいと思っても、いつの間にか残してしまう動かぬ証拠、それが毛髪と繊維だ。毛髪と繊維は、犯行現場に自然と落ちるからだ。被害者の体に犯人の着衣の繊維が残っていたり、犯人の車の中に被害者の着衣の繊維が残っているケースは少なくない。ひと口に繊維と言っても、ポリエチレン、ポリプロピレンから、アクリル、ナイロン、ポリエステル、綿、レーヨンまで、その種類や特徴は実に多種多彩だ。