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がん治療に「経済的毒性」〜 治療費の上昇で保険加入者でも重い負担

ガンの治療費が払えない、、、、shutterstock.com

 抗がん剤の新薬が次々登場し治療の可能性を広げているが、近年ではあまりにも費用が高額になり、患者のQOLと服薬アドヒアランス(患者が薬剤を処方通りに服薬すること)に悪影響を及ぼしている。この患者に負担を与える治療費の問題は、「経済的毒性」と呼ばれ、米国で深刻化している。

 ペンシルベニア大学のScott F Huntington氏らは、2014年8月18日から2015年1月7日にかけて、3ヵ月以上の継続的治療を受けている多発性骨髄腫患者を対象に、横断調査を行った。調査には過去に報告された研究に基づき、11項目のCOST尺度(経済的毒性スコア範囲0~44)が含まれた。適格患者に対して、定期的な追跡調査通院に関する書面調査が行われ、調査参加者はその通院前後に記入を完了することが求められた。保険及び治療データは患者の電子カルテから得た。

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 協力を依頼した111名の患者のうち100名が調査を完了し、100名のうち59名(59%)が予想よりも治療費が高かったと報告し、99名のうち70名(71%)が少なからず経済的負担を感じていた。また、100名のうち36名(36%)が経済的援助を求めていると報告した。

 多発性骨髄腫の治療費の支払いのために貯金を取り崩す人も多く(94名中43名[46%])、98名中21名(21%)が薬代の支払いのために借金をしていた。COSTスコアは、患者報告による多発性骨髄腫の治療費捻出方法の利用と大きく関連していた。COSTスコアを使って測定したところ、若年者、未婚、診断からの期間の長さ、世帯収入の低さが、重度の経済的負担と関連することがわかった。

 この患者報告から、医療保険に加入していても、多くの多発性骨髄腫患者が経済的毒性の影響を受け、治療費を捻出するために策を講じていることがわかった。

がん治療費医年間にどれぐらいかかるのか

 がん患者に影響を及ぼす〝経済的毒性〟は日本でも深刻だ。新しい抗がん剤は、開発費の回収のためそれなりに高い価格設定になってしまう。その象徴ともいえるのが、主に血液がんの一つである慢性骨髄性白血病 (CML)に対して使用されるイマチニブ(商品名グリベック)だ。

 錠剤を飲むだけで通院回数も少なくてすむ。その上効果が高く、副作用が少なめであるためでため、慢性骨髄性白血病の治療を根本から変えた言われるほどだ。この医薬品で慢性骨髄性白血病の10年生存率が20%以下から80%以上へと跳ね上がった。

 しかし、健康保険の3割負担でも、4週間分で約10万円、1年間で110万円もの支払いとなる。このほかにも入院費用、手術費用、検査費用などの医療費も加算される。もちろん健康保険など公的医療保険による治療を受けた場合には、1カ月の自己負担限度額を超えた費用が戻ってくる「高額療養費」の制度がある。また、民間保険の給付もあるだろう。いったい、がん治療の負担金の実態はどうなのか?

 東北大学の濃沼信夫教授(当時)が2010年の第48回日本癌治療学会学術集会で発表したがん患者1万8000人を対象にした調査データによると、自己負担額の平均を101万円としている。高額医療費での還付や民間保険による給付などを差し引くと、実質の負担平均は、平均40万円ほどであるという。

 また、がん患者で継続的な治療が可能な数を152万人として、経済的な理由で治療を変更・断念した患者は約3%、実に4.,5万人になるとしている。

経済負担に耐えかねた〝静かな自殺〟の選択も

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