自殺か他殺か自然死か?(shutterstock.com)
凄惨な殺人事件が起きると、マスコミは騒ぎ立てる。誰もが耳をそばだてる。殺されたのはなぜ? 犯人は? 死因は? そんな巷の喧騒に目もくれず、口なき死体の真実をひたすら暴く、それが検視だ。
死因に異常がある死体は3体ある。殺害が明らかな犯罪死体、犯罪の関与が不明の変死体、事故死や自殺死などの非犯罪死体だ。検視は、犯罪死体の損傷、着衣などの現場状況から、死因、死亡推定時刻、死亡状況、凶器の特定などを調べる。ポイントは、自殺か他殺かだ。
[an error occurred while processing this directive]自殺か他殺かは、なぜ分かるのか?
頭部なら、頭髪を剃れば鈍器による外傷がある。絞殺で窒息した死体の眼球には、血液が固まった溢血点(いっけつてん)が現れる。紐などで首を絞めた場合(絞死)や、手で首を絞めた場合(扼死)、首を絞めた痕の索条痕(さくじょうこん)が残る。手で首を絞めると、喉の舌骨(ぜっこつ)が折れる時がある。二の腕の内側に皮下出血があれば、腕を掴まれた時にできたものと推察できる。手や指に細かい切傷や裂傷があるなら、刃物の襲撃から身を守るために抵抗してできた防御創(ぼうぎょそう)と推定できる。抵抗した時に犯人を引っかいたなら、被害者の爪に残された皮膚から犯人のDNAを採取できる。性器に不自然な擦過傷(すり傷)や精液の残留があれば、強姦殺人が疑われる。
つまり死体は、自殺か他殺かを雄弁に語ってくれる。
このような死体の死因を究明する検視に携わるのが検視官だ。検視官は、各都道府県警察本部の刑事部に所属し、犯罪現場の初動捜査を指揮して、自然死か事故死か殺人死かを判断し、死因に異常が見られる死体を司法解剖するかどうかを決定する。
検視官は、法医学のすべてに精通した知識・実績・実力、ハイレベルな分析力やコミュニケーション能力が求められるので、警視クラスも少なくない。警視とは、警視総監、警視監、警視長、警視正に次ぐ第5位の高い階級をもつ警察官だ。検視官は、犯罪事件の審問、公聴会、裁判などに出席して証言する重要な職務も担当している。