今回は大腸がん予防のポイントとなる、便秘のメカニズムについて説明しよう。
厚労省の平成22年国民生活基礎調査によれば、便秘で悩む人は人口1000人当たり男性24.7人、女性50.6人。若い世代では女性がとくに多く、加齢に伴って男女ともに増加する。慢性便秘症の疫学調査はないが、女性が多いと推定さてれている。
[an error occurred while processing this directive]便秘のメカニズムを探ってみよう。便秘は、排便回数や排便量の減少、残便感や腹部の膨満感、腹部の不快感、排便時の強いいきみ、腹痛をはじめ、胃もたれ、胸やけ、食欲不振、肌荒れ、肩こりなどの症状がある状態。慢性便秘症は、便秘の症状が慢性化し、長期間にわたって便秘が続いている状態だ。日本内科学会は、3日以上排便がない、または毎日排便があっても、便が硬くて量が少なく、残便感がある状態を便秘としている。
便秘はどのように起きるのだろうか? 排便のメカニズムは2段階ある。第1段階は、食べ物が胃に入ると大腸が反射的に収縮し、便を直腸に送り出す胃・大腸反射。第2段階は、便が直腸に達すると便意のシグナルが大脳に送られて便を排泄させる直腸・結腸反射だ。
つまり、食べ物が食道から胃に入ると、まず胃・大腸反射が起こり、胃が消化したドロドロ状態の食塊は、十二指腸、小腸から大腸に入る。食塊は、大腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)によって、ゆっくりと水分を吸収して固形化(便塊化)し、大脳の指令によって直腸・結腸反射が起き、便意をもよおす。
蠕動運動は、大腸の輪状筋がミミズのように動き、大腸内の便塊を直腸、肛門に移動させる運動だ。お腹が「グルグル」と鳴る音でお馴染みだろう。若い頃は蠕動運動が活発だが、歳を重ねるにつれて運動能力が落ち、消化時間がかかるために、鳴りを潜めるようだ。
しかし、大腸の蠕動運動は自律神経が支配しているので、意識的に調整したりコントロールはできない。したがって、蠕動運動が低下すると消化時間がかかり、便塊が何日も大腸内に滞留する。その結果、水分の吸収がさらに進むため、便塊はますます硬く小さくなり、便秘が引き起こされる。
このように便秘は、大腸の蠕動運動の低下が主因だが、不規則な生活習慣、食物繊維の不足、偏食などによって、胃・大腸反射や直腸・結腸反射に悪影響を受け、排便のリズムが乱れて便秘を招くのだ。
なぜ女性は便秘にかかりりやすいのか?
女性に便秘が多いのは、なぜだろうか? その要因はいくつかあるが、女性は、男性に比べると腹筋が弱いため、大腸が便を送り出す力が弱いという身体的理由がある。
女性ホルモンも関係する。黄体ホルモンは、水分や塩分を体内に蓄積するよう指令すると、大腸の腸壁から便の水分が吸収されて便が硬くなる。黄体ホルモンは、妊娠時に流産を防ぐために子宮筋の収縮を抑制するので、大腸の蠕動運動を低下させる。特に黄体ホルモンが多く分泌される月経前や妊娠初期に便秘になりやすいのは、このためだ。
無理なダイエットの影響もある。食事量が減れば、食物繊維、水分、脂肪分の摂取量が少なくなるので、蠕動運動が低下するため便が硬くなり、排出しにくくなる。また、精神的な理由としては、女性はトイレをガマンしがちで、旅行、勤務、転居、入院などの生活パターンの変化によって自律神経の乱れると、強い緊張感やストレスの影響を受けやすい
その他、薬剤の影響で大腸の蠕動運動が抑制され、便秘になることもある。例えば、モルヒネなどの麻薬系の鎮痛薬、コデインリン酸塩水和物などの鎮咳薬は、大腸の蠕動運動を抑制する。
気管支拡張薬、鎮痛薬などの抗コリン薬をはじめ、抗ヒスタミン薬、向精神病薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗不整脈薬、降圧薬(Ca拮抗薬)は、消化管の緊張を低下させる。制酸薬、鉄剤、ビスマス製剤などは、皮膚や粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作る収れん作用があり、大腸の蠕動を抑える働きがある。
さらには、糖尿病や甲状腺機能低下症などの全身性疾患によって便秘になるケースもある。激しい腹痛や嘔吐を伴う場合は、他の病気の疑いがあるので、医療機関を受診してほしい。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。