医療の現場で大量に必要とされる輸血用血液shutterstock.com
献血されたあらゆる血液を、どの患者にも安全に輸血できるO型に変える方法が実現に近づいているという。異なる血液型を輸血すると致命的な免疫反応を引き起こす赤血球上の物質を取り去る酵素を作り出すことに成功したのは、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学血液研究センター(バンクーバー)の博士研究員David Kwan氏ら。まだ完全ではないものの、実現化に向けて大きな前進がみられたという。
[an error occurred while processing this directive]今回の研究は米国化学学会(ACS)誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。米国赤十字社(ARC)のRichard Benjamin 氏によると、血液バンクは誰にでも輸血できるO型、なかでもRH陰性のドナーに大きく依存しているという。RH陰性のO型の血液をもつ人は人口のわずか約6%であるのに対し、病院での輸血の約11%をこの型が占めている。「この血液型は常に不足しており、頻繁にドナーに献血を依頼している状況である」と、同氏はいう。
血液型は、赤血球表面にある糖(抗原)によって決まり、身体がこの抗原を異物と認識すると免疫系の反応が生じる。A型はA抗原をB型はB抗原、AB型はA抗原とB抗原を両方持つ。そしてO型はどちらの赤血球抗原を持たないのだ。したがって、O型の血液はどの血液型の人にも身体にも血液を提供することができることになるため、「ユニバーサルドナー」として血液バンクにとって貴重な血液型だ。
輸血や移植への実用化はまだ先
酵素を用いてこの抗原を除去するプロセスは約15年前から存在していたが、これまでは十分な効果が裏付けられていなかった。2000年代はじめの臨床試験では、この酵素で血液を処理してもまだ弱い免疫反応が生じることが明らかにされている。
Kwan氏らは、この酵素に指向進化を実施して突然変異体を作製し、血液抗原の除去に最も優れたものを選定した。その結果、わずか5世代で酵素の効果は170倍になった。まだ効果は十分ではないものの、この酵素改良プロセスが有効であることを示すには十分な結果だと研究グループは述べている。A型やB型の血液からO型の血液を作ることのできる酵素を開発するには、少なくともあと数年を要するという。
このプロセスが完成すれば、臓器移植などにも応用できる可能性がある。Kwan氏は、「われわれが赤血球から除去しようと試みているのと同じ抗原が、他の組織や臓器にも存在する」と述べる一方、大きな違いは、臓器は生きた組織であり、酵素を用いたプロセスで抗原を除去しても再生される可能性もあると指摘している。
日本では異種の血液型を輸血して血液凝固する場合があるため輸血は同種型になっている。さらにもうひとつの血液型であるRh型の決定も必要になる。Rh型の陰性か陽性かを調べ、2つの血液がいづれも一致したときにのみ輸血が行われる。実際にはさらに、輸血する血液と輸血を受ける人間の血液を混ぜ合わせ異常な反応が無いかを調べる交叉適合試験が行われる。
今回の研究では、ABO型血液を決定する赤血球抗原の除去法に関するもので、現実の輸血や移植に使われるのはまだまだ先ではある。
ところで、未だABO血液型と性格との相関性があると主張するトンデモ科学者たちはこの研究で性格まで変わってしまうと主張してしまうのだろうか、楽しみに待ちたい。
(文=編集部)