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若年者の自殺を考える:自殺の手助けとなる情報の規制が必要!

急性薬物中毒患者の95%以上が発作的に大量服用 shutterstock

 全国の自殺者は最近やや減少に転じているものの、依然として1年間に3万人前後を数えており、深刻な社会問題となっている。そこで、筆者が実際に経験した救急医療現場での症例とともに、「高齢者編」と「若年者編」に分けて、その実態を紹介する。今回は若年者の自殺のケースを見てみよう。

●症例1(19歳・男性、専門学校生)

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 母親と2人暮らしで、学校で友人にいじめられたり、無視されるようになった。そのうち「学校に行きたくない」と訴えるようになるとともに、家庭でも母親に暴力を振るい、「死にたい」と口走ることが多くなった。それと同時に、感情の波が激しくなっていった。

 ある夜、市販のバファリンAを106錠(アスピリン34.98g相当)を飲んで自殺を図る。30分後に頭痛、動悸、発汗、呼吸苦が出現し、母親が救急車を要請。服用から4時間10分で当院に搬送された。

 アスピリン血中濃度は104.4 mg/dL(常用量服用時は20 mg/dL以下)と高く、横紋筋融解症と急性腎不全を併発していたため、解毒および腎臓の働きを回復させる目的で血液透析を3時間行った。アスピリン血中濃度は23 mg/dLに低下し、腎臓の働きも次第に回復した。

 その後、患者は落ち着きがなく、時には大声を出したり、暴れたりして、精神的に不安定な様子であった。カウンセラーによる母親を含めた面接で心療内科の受診を勧められ、搬送後10日目に退院した。

●症例2(18歳・女性、20歳・男性、ともに無職)

 2人は同棲中であったが、最近、喧嘩が絶えず、男性はしばしば暴力行為に及び、女性は「別れたい」と願うようになった。

 某日、女性は夜間に風呂場を目張りして、トイレの洗剤であるサンポールと農薬である石灰硫黄化合剤を水に溶かし、気体を発生させて吸引自殺を試みた。帰宅した男性が異変に気づき、あわてて換気。すでに女性の意識はなく、男性も嘔気、頭痛、のどの痛み、呼吸苦を訴え救急車を要請した。駆け付けた救急隊員が女性の死亡を確認するとともに、男性を当院に搬送した。

 女性は急性硫化水素中毒死だったが、男性は比較的短時間の吸引であったため命は取り留めることができた。男性は肺炎を併発していたため抗生剤などによる治療を行い、10日後に無事退院した。

自殺の手助けとなる情報の規制を

 若年者の自殺企図(きと)を見ると、家庭、学校、職場などでの人間関係、特に男女間の軋轢、いじめ、暴力などが主な原因となっている。症例1のように、友人との不仲、いじめなどに直面し、ひとりで思い悩み、孤独に耐えて、ついには自殺を図るケースは多い。

 また、救急医療現場で直面する急性薬物中毒患者の95%以上は、うつ病、統合失調症、境界型人格障害などの病名で、精神科、心療内科で治療を受け、処方された向精神薬や催眠薬を貯め込んで、発作的に大量服用するケースがほとんどである。

 このようなケースは数日間の入院治療で退院できるが、しばらくして再度、大量服用して救急搬送される、いわゆる「リピーター」が多数存在する。これらのリピーターは、情緒不安定で、うつ状態に陥った時に発作的に大量服用を企てるるため、厳密には自殺企図の範疇には含まれないものと思われる。

 さらに、症例2でもわかるように、最近はインターネットや自殺を手助けしかねない出版物の普及により、容易に自殺を遂げることも起こり得る環境にある。特にインターネットの普及は、知識の悪用に進む可能性が大であると思われるため、記事の発信に対しては何らかの規制が必要だ。
(文=横山隆/日本中毒学会評議員、札幌中央病院腎臓内科・透析センター長)
        

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