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【連載第5回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

危険ドラッグはわが国最強のハードドラッグである~第29回日本中毒学会東日本地方会より

千葉県の撲滅キャンペーン(千葉県健康福祉部薬務課)

 危険ドラッグと称される製品の乱用によって、患者自身の精神的、身体的悪影響のみならず、危険運転による人身事故、傷害や殺人事件が後を絶たない。

 1月10日にさいたま市で開催された『第29回日本中毒学会東日本地方会』では、危険ドラッグに関する多数の演題発表があった。いずれも最近のドラッグの毒性や依存性の強さ、すなわち大麻の数十倍、覚醒剤の数倍の作用を認め、精神毒性が極めて強く、依存症患者が増加している点を強調していた。

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 特に埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也副院長の基調講演によると、薬物依存症専門外来では、平成23年6月より26年5月までの新規外来薬物使用障害患者323名のううち覚醒剤が140名(45.2%)で最も多く、次いで危険ドラッグが110名(34.1%)であり、向精神薬42名(13.0%)を大きく引き離していた。危険ドラッグ使用患者は男性が87.3%と圧倒的多数を占め、平均年齢は29.5歳と若年者が多く、初回使用年齢は26.8歳であった。主な症状は幻覚妄想34名(30.9%)、動悸、頻脈、血圧上昇、呼吸苦、めまい、嘔気、嘔吐、筋硬直、痙攣などの身体症状が27名(24.5%)に認められた。他の薬物乱用歴がある者が87名(79.1%)であり、大麻、覚醒剤、MDMA、シンナーなどの有機溶剤、向精神薬、コカインなどの使用から危険ドラッグに切り替わる雪崩現象を起こしているのが現状だという。

危険ドラッグに麻薬、覚醒剤などの成分が大量に混入

 また危険ドラッグと大麻、覚醒剤、向精神薬との併用患者も増加しており、治療も困難を極めているのが特徴となっている。危険ドラッグの成分も非常に複雑で、単一成分の商品は少なく、幻覚妄想や精神運動興奮が主症状として現れる興奮系(カチノン系化合物)と意識障害が主症状である鎮静系(合成カンナビノイド)が混在している商品が多数を占めている。特にカチノン系化合物が主体の商品を使用した患者では、粗暴となって措置入院が必要となることも多数認められる。今や危険ドラッグは我が国最強のハードドラッグとなった。これからは常用者の慢性中毒患者に対する治療が大きな課題となるであろうと報告した。 
 
 危険ドラッグの成分分析を行っている岩手医科大学高度救命救急センター薬物毒物検査部門の藤田友嗣先生はクロマトグラフィー法で麻薬であるα-PVPや多数の麻薬類似物質を危険ドラッグ使用患者の血液より同定したと報告。また科学警察研究所の辻川健治先生は、20歳代男性で4年間に渡り危険ドラッグ使用歴のある患者の例を報告。焼酎に2種類の粉末の危険ドラッグを溶かして服用し、翌日錯乱状態となり、屋外に出てバイクに乗っていた人に暴行を加えて負傷させた。その後も錯乱状態が続き、逮捕、拘留されたが、4日後に意識朦朧状態となり、病院に転入院された。患者の尿と血液より麻薬α-PVPと類似した化学構造を有するα-PHPと危険ドラッグを使用して交通事故を起こした多くの患者より検出されたジフェニジン、DL-4662も検出されたとしている。

 これらの危険ドラッグ使用患者の血液、尿の分析結果より最近のドラッグは麻薬と同等あるいはより強力な作用を有する成分が含有されていることが判明した。今後は危険ドラッグに麻薬、覚醒剤などの成分が大量に混入され、人体により一層重篤な悪影響を及ぼす可能性が懸念される。


連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

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