「ミドリムシ」と聞くと緑色のイモムシやアブラムシのようなものを想像するのではないだろうか? しかも、ミドリムシを食べたり飲んだりすると聞けば、「そんなのありえない!」と思う人もいるだろう。
名前はミドリムシだが、正確には「虫」ではない。「ユーグレナ植物門ユーグレナ藻網ユーグレナ目」に属する鞭毛虫(べんもうちゅう)の仲間で、毛状の細胞小器官を回転・屈曲させて鞭毛運動をする「動物的性質」と、葉緑体による光合成を行う「植物的性質」を併せ持った、体長0.1ミリにも満たない珍しい生きものだ。ワカメやコンブと同じ「藻」の仲間で、5億年以上前から存在する。
[an error occurred while processing this directive]そして、細分化すると100種類ほどいるミドリムシのそれぞれが、驚くべき数の栄養素や特質を持っているのだ。
そのミドリムシの栄養素にいち早く着眼し、製品化へこぎつけたのが株式会社ユーグレナだ。淡水に生息するミドリムシは、水溜りや水田、池などに発生するが、その大きさから食物連鎖の最下層におり、栄養も豊富とあってすぐに捕食されてしまう。そのため大量培養することが難しく、製品化への大きな壁になっていた。そこでユーグレナは、東京大学、大阪府立大学、近畿大学等の各大学研究室と共同で研究を重ね、主にミドリムシだけが生息できる環境を作り上げ、世界で初めてミドリムシの大量培養に成功した。
ミドリムシから摂取できる栄養素には、十数種類のビタミン、ミネラル、必須アミノ酸を含むアミノ酸、不飽和脂肪酸などがある。しかもミドリムシは、細胞壁を持っていないため通常の食品よりも体内での吸収率が高く、味もコンブや抹茶に似ているとあって、栄養補助食品の素材としてうってつけだ。
となると、食品業界やコンビニ業界の大手がこぞって、健康や美容を目的とした食品、たとえばヨーグルトやスムージー、クッキー、デニッシュなどに添加したくなるのもうなづける話である。最近では、ミドリムシ(学名・ユーグレナ)が入った中華まんも作られ話題になっている。
デトックスやメタボ予防、ジェット燃料にまで
ミドリムシは食品業界のみならず医療界でも注目の的だ。
ミドリムシが持つ珍しい成分のひとつに「パラミロン」という物質がある。パラミロンはミドリムシにだけ含まれている成分で、多糖結合体(単糖が結合したもの)の結晶であり、炭や植物繊維と同じように体内の不要な物質、脂肪やコレステロール、プリン体、有害重金属などを吸着させ、そのまま排出する効果があると言われている。また、パラミロンで作られた医療用フィルムは、現在使用されているセルロースフィルムや包帯、ガーゼなどよりも創傷治癒効果が高いという研究結果も得られている。
このようにミドリムシに含まれる成分は、デトックス効果やメタボ予防、生活習慣病やアレルギーなどに効果があるとあって、医薬品としての注目度が高く、先日、大手薬品メーカーである武田薬品工業とユーグレナが包括提携契約を結んだ。
驚きの声をあげるのはまだ早い。100種類以上いるミドリムシの中にはオイルを多く含む種類があり、そのミドリムシからジェット燃料が精製できるという。ジェット燃料は数年先の実用化に向け研究・実験が必要だが、すでにいすゞ自動車とバイオディーゼルが共同研究をスタートさせ、ディーゼル燃料にミドリムシから作られたバイオ燃料を足したディーゼルバスを走らせている。現在はまだ1%ほどだが、2020年の東京オリンピックまでには100%の実用化を目指すという。
このように、食品業界や医療業界のみならず、あらゆる業界が注目するミドリムシ。その驚くべき成分の実用化に向けた研究・開発は、さまざまな角度から進められている。
(文=編集部)