MENU

【連載第2回 恐ろしい危険ドラッグ中毒】

実録危険ドラッグ。深夜、漫画喫茶で突然叫び声を上げた20代女性は...

 札幌市内繁華街の漫画喫茶店内、夜も深くなり始めころ20歳代とおぼしき女性が、突然叫び声を上げた。店員が駆けつけたところ、女性は全身をけいれんをさせ、吐き気、頭痛、胸の痛み、呼吸苦を訴えていたため、救急車が要請され、翌日0時56分に私が勤務している病院に搬送されてきた。

どうやら危険ドラッグ(商品名不詳)をキセルの中に注入して吸い込んだらしい。吸引した危険ドラッグは救急隊員に渡され、病院に届けられた。
もうろうとした状態で入院したが、8時間後には意識が回復したため、一連の経過について話を聞いてみると、現在は「境界型人格障害」の治療のため近隣の精神科病院に入院中で、今回は外泊を認められて札幌に来たという。

[an error occurred while processing this directive]

 来てすぐに以前3度立ち寄って危険ドラッグを購入したことがあった繁華街のハーブ店で、再度入手したと告白した。過去に札幌市内の精神科クリニックでやはり境界型人格障害と診断されて外来で精神安定剤などの処方を継続していた。これらの処方薬を4度にわたり大量服用したために意識レベルが低下して、他院に救急搬送されて、入院治療を受けたことも判明。その後、外来治療では不十分なため、3カ月前より近隣の精神科病院に入院した。

 幸いにも今回は入院後、比較的短時間で意識は改善し、精神的にも安定、吐き気などの症状も消失し、さらに諸検査の結果で肝臓、腎臓、心臓などの臓器障害、CTスキャンなどでの脳の異常などは認められなかった。

 こうした経緯を警察や入院先の精神科病院に報告した。警察は吸引した危険ドラッグを押収したものの、患者さんを拘束する必要はないと判断。入院中の精神科病院に患者さんを引き取ってもらい、継続入院することになった。

●一般の医療機関では難しい危険ドラッグ吸引の医学的な判定

 後日、警察にこの危険ドラッグの成分分析結果などについて尋ねてみたが、病院側には報告できないとのことであった。この患者さんのケースでは、吸引した危険ドラッグそのものを医療者が入手でき、比較的短時間で患者さんの意識も回復した。このときの病歴聴取で、危険ドラッグの吸引を認めたため、病名診断は容易にできた。

 しかし一般の医療機関では、患者搬送時に尿や血液を採集して危険ドラッグ中毒か否かを明らかにすることは、現在のところ判定する試薬、テープなどが存在しないため不可能であり、また尿、血液、吸引したドラッグを専門の分析機関に搬送依頼せねばならないため、判定にはかなりの時間を要するのが現状である。

 また患者さんの意識レベルの回復に長時間を要したり、吸引の事実を隠して素直に報告しなかったケースでは、正確に危険ドラッグ中毒と診断することができなかった例も過去には多数認められた。 
 
 近年、覚醒剤取締法や麻薬および向精神薬取締法の規制を受けない「危険ドラッグ」と称される製品の乱用によって、患者さんの身体的・精神的被害のみならず、使用後の危険運転による交通事故や傷害事件が引き起こされることが日常茶飯事となっている。警察報道の危険ドラック報道はあまたある。しかし、現実に危険ドラッグ対応の最前線となるのは救急医療期間であることがほとんどだ、今後、可能な限り救急医療現場から見た危険ドラッグ中毒患者さんの現況を報告し、その対策に関する提言もおこなっていきたい。

注)境界型人格障害:「確かな自分」を持っておらず、常に誰かに頼って行かねば不安である。急に激しく怒りだす、衝動的に自分を傷つける、親しい人を突然嫌い出すなどの周囲を振り回す様々なトラブルを引き起こす。20歳代女性に多く発症し、患者の背景には、自己の未熟さ、親子関係の悪化、いじめ、虐待(特に性的虐待)などが存在することが多い。うつ病、摂食障害(過食症、拒食症)、過呼吸症候群などを合併して、治療がより困難となるケースでは、精神科病院への入院が必要となることがある。現在わが国での精神科処方薬大量服用による急性薬物中毒患者では本症が最も多い。

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

アクセスランキング