無重力状態と、概日リズムの崩れが寝不足を引き起こす?
一般人の宇宙旅行も、そう遠くない将来に実現しそうである。ただし、睡眠障害をわずらうというリスクはありそうだ。
これまで宇宙に飛び立ってきた宇宙飛行士たちは、かなりの睡眠障害に陥ってきた。このほどNASA、(アメリカ航空宇宙局)が資金を提供して行われた研究によって、宇宙飛行士の「眠りの状況」が明らかになってきた。
[an error occurred while processing this directive]研究では、スペースシャトルのフライトに関わった64人と、ISS(国際宇宙ステーション)への13回のミッションに関わった21人からデータを集めたという。腕時計型の装置で、訓練の行われていた地上で4000回、宇宙で4200回もの睡眠と覚醒のサイクルを観察。とくにISSの地球軌道上での睡眠データは、これまでにない大規模なものだった。研究のなかで意外だったのは、宇宙飛行士の約75%が一般的な睡眠薬に頼っているという報告だ。
スペースシャトルのフライト、ISSでのミッションと、いずれの場合もガイドラインでは1日の睡眠時間を8.5時間と定めている。ところが、平均睡眠時間は6時間弱。7時間連続で眠ることも、スペースシャトルで12%、ISSで24%と、相当に少ない。宇宙飛行士たちは、打ち上げの3カ月前からスタートする地上での訓練期間中から、すでに睡眠不足を感じていたのである。そして、打ち上げ後も睡眠障害に悩まされる。その原因はさまざまである。
●宇宙では、24時間が90分の概日リズムに凝縮
まず、無重力状態による浮遊感。地球上では重力によって血液も体液も下へ向かう。ところが無重力状態になると、たとえば下半身にたまっていた体液などは胸や頭へも向かうようになる。すると、顔がむくんだり(ムーンフェイス)、首や顔の血管が浮き出たり、鼻が詰まったりする。やがて人間の体は順応して、ムーンフェイスなどは収まるのだが、睡眠への影響はその後も強く残るようなのだ。さらに騒音、変化しやすい室温、換気不足なども睡眠の妨げになる。
そして、何より大きな睡眠不足の原因と考えられたのは、ISSは地球を90分で一周するため、45分ごとに日の出と日の入りがやってくることだ。極論すると、地球上だと24時間だった1日が90分に凝縮されているともいえる。これでは、身体の24時間のリズム(概日リズム)が崩れてしまう。時差ボケのもっと激しい状態だ。これではとても眠れないだろう。
こうした睡眠不足は、作業の能率低下につながり、時には事故をも引き起こしかねない。とくに、睡眠薬を使用した時には、緊急事態で起こされたとしても、すぐに最高の判断・行動が取れない可能性が高いという指摘もある。そのため、NASAでは「宇宙での眠り」を見直す動きが出てきている。
これまでの睡眠対策では、光と音が眠りを妨害すると考えられたため、ISS内に光と音を遮断する睡眠ステーションを設置したことがあった。ところが、この後も睡眠障害を示す宇宙飛行士は少なくなかったのである。
そこで考えられたのが、LED電球を光拡散カバーで覆った照明だ。これは白色光と青色光、赤色光と調整しながら発することができ、青みがかった光はメラトニン(睡眠を促進するホルモン)の分泌を抑制し、赤みを帯びた光はメラトニンの分泌を増やす。
人類、いや、生物が経験したことがない宇宙空間での生活は、今後、さまざまな謎が解明されていくだろう。そして、これまでのようにそこで得た知見は、地球上での睡眠障害の治療などに応用されていくに違いない。
(チーム・ヘルスプレス)【ビジネスジャーナル初出】(2014年10月)