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古い劇映画などを見ていると、登場人物に喫煙者が多いことに改めて驚かされる。いや、そんな古い話でなくともいい。つい10数年前でさえ、町中の至るところでタバコの煙をくゆらす人を見かけたし、灰皿のない飲食店は少なかった。
ところが、今や街中を見渡しても喫煙者の方が少なく(というより、ほとんどいなくなった)、駅の外の小さな喫煙コーナーなどで数人が肩寄せ合ってタバコを吸う姿を目撃するぐらいである。
喫煙者にはかなり暮らしにくい世の中となっているのだが、ここにきて医療保険料にも喫煙の有無が反映される可能性が出てきた。政府の産業競争力会議の分科会は、個人の健康に対する取り組みに応じた医療保険料決定の仕組みを提言している。
つまりは、真面目に健康増進に取り組んでいる人の保険料は低くし、健康のことなど無頓着に生きている人からは高く徴収するということだ。
分科会委員によると「健康増進に努力した人が報われるような制度にすべき」で、それが金銭的なインセンティブとして与えられることで、いわば「アメとムチ」のような意味合いを持つことになる。
●いずれは「非喫煙証明書」の提出が必要に?
もちろん、こうした喫煙における「アメとムチ」作戦は賛否両論で、喫煙派からよく出る意見として「何十年とタバコを吸い続けても健康な人はいる」というものがある。元気な高齢者の中に喫煙者がいることは確かだ。しかし、喫煙者と非喫煙者を比較した場合、あらゆる病の死亡率で喫煙者のほうが高くなっているのも事実なのだ。
がんでは、肺がん(非喫煙者の4.5倍)、肝臓がん(3.1倍)、口腔・咽頭がん(3倍)、食道がん(2.2倍)などと、どの部位でも死亡率は高くなっている。喉頭がんに至っては実に32.5倍なのだ。
がんだけでなく、肺気腫(2.2倍)、クモ膜下出血(1.8倍)、胃潰瘍(1.9倍)、虚血性心疾患(1.7倍)と、やはり喫煙者の方が高率である。また、ひどくなると酸素ボンベが手放せなくなる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症原因の9割は喫煙だということがわかっている。
2006年4月から禁煙治療に健康保険が適用されるようになったが、この時にも決定までの間に反対意見が噴出した。とくに「喫煙は個人の嗜好であるから、そこに公的な保険を適用させるべきではない」という意見が多かった。禁煙そのものも「個人の責任で行うべき」との意見が出されている。
しかし、重い病気(がんや心臓病)を患った場合にかかる医療費の大きさ、さらには副流煙による非喫煙者への影響なども考え合わせると「保険適用はやむなし」という意見に傾いていったのだ。こうした世の動きや啓蒙活動によっても喫煙者が少なくなっていったのだから、効果があったというべきなのだろう。
そこで、今回の保険料における「アメとムチ」作戦だが、過去の禁煙治療への保険適用のようにスムーズにはいかない可能性がある。というのは、喫煙者にも1日に何箱も吸う人もいれば、1日数本しか吸わない人もいる。それを一緒くたにしていいのかどうか。ほかにも、ヘビースモーカーの家族はどうなるのか、禁煙してからの年月の長短は鑑みられるのかなど、多くの問題が山積しているのである。
提言では、こうした医療保険におけるインセンティブ制度の導入に関しては、あくまで企業の健康保険組合や市町村の国民健康保険などの運営側に任せる、としている。
いずれにしても細則づくりは難航するだろう。いずれは、喫煙者でないことを証明するための「非喫煙証明書」のようなものさえ必要になってくるのかもしれない。【ビジネスジャーナル初出】(2014年8月)
(文=チーム・ヘルスプレス)