腹式呼吸で、自律神経とうまく付き合う。
現代人は、仕事や対人関係などのストレスから、呼吸が浅くなりがちだ。特にデスクワークが多く、長時間にわたって背を丸めた姿勢でディスプレイを見つめていると、それが習慣化する――。呼吸の浅さは、肩や首のコリや体のダルさ、イライラなどにつながるとされるのだから、軽く見てはいけない。
緊張やストレスとうまく付き合っていくカギを握るのは、自律神経だ。緊張すると汗をかいたり、心臓がドキドキしたり、血圧が上がったりするのも、この神経の働きによるものだ。ただし、自律神経は自分の意思とは無関係に働く。従って、「うまく付き合う」といっても、その方法はわかりにくい。だが、自分の意思で自律神経をコントロールできる方法がある。それが呼吸なのだ。
[an error occurred while processing this directive]不安や緊張が続くと呼吸は浅く速くなり、リラックス時には深くゆっくりとなる。このように、心の状態と呼吸は影響し合っている。浅い呼吸は「胸式呼吸」といわれるもので、楽にできるが新鮮な空気を取り込みにくく、体内の酸素交換も十分ではない。一方、深い呼吸は「腹式呼吸」で、1回の呼吸で出し入れする空気の量は胸式の3倍以上あるともいわれる。多くの酸素を体内に取り入れることができるため、肺や心臓の負担が減り、血圧を上げないというメリットもある。さらに腹式呼吸は横隔膜を動かすため、内臓がマッサージされ、生体機能の低下を防ぎ、全身の血行促進にも効果があるという。
●ぽっこり出たおなかを引き上げる効果も
この呼吸法を簡単に行うコツを教えてくれたのは、「ホットヨガ&フィットネススペース ジル」(山形県)のスタッフ、五十嵐あゆ子さん。「ルーシーダットン」マスターコース認定インストラクターの資格を持つ。
ルーシーダットンとは、インドやタイなどで瞑想・修行を行っていたルーシー(仙人)が考案した体操法だ。長時間の座禅・瞑想で歪んだ体を矯正したり、厳しい修行で崩した体調を整えたりする上で有効なものが、現代まで残ってきた。もともとセルフケアを主眼に考案されているため、超人的なポーズや高度な柔軟性・バランス力・筋力は求められず、瞑想や精神統一は、あまり重視されない。現代人の悩みである、体調不良の回復、健康を維持・向上にとって、手軽にできる最適な体操だといえる。
今回紹介するのは、ルーシーダットンの基本となる腹式呼吸。仕事や家事の休憩時間の合間に取り入れてみよう。
姿勢はリラックスするために、できれば仰向けに寝たほうがいい。しかし、スペースの関係や人目につくのが嫌だという場合は、椅子に腰掛けたままでも大丈夫。
まず、背筋を伸ばす。そして、腹式呼吸(横隔膜)を使って8秒かけてゆっくり鼻から吸い、5秒かけて口から吐く。身体の隅々まで酸素をいきわたらせるイメージだ。これを1セットとして、5回を目安に繰り返す。
なお、口での呼吸はウィルスを取り込みやすいため、吸うときは必ず鼻で。
「初めての人や慣れていない人で、"横隔膜を使って呼吸する"のがうまくできない場合、左右の中指がへその上で付くように、両手をおなかを置いてからスタートしてください。吸ったり吐いたりしたときに、中指が移動することで横隔膜の動きを目で確認しやすくなります」(五十嵐さん)
腹式呼吸は、自律神経の副交感神経への刺激として伝わり、緊張やストレスなどを感じて、血管を収縮させる交感神経の働きを抑制して血行を促進させる。初心者でも、"しっかりと吸う=酸素を取り込む"ことができるので、効果を感じやすいという。脳に酸素がいきわたるイメージは、集中力も高まって仕事の作業効率もアップしそうだ。
「私もこの呼吸法を始めてから、免疫力がアップしたようで風邪をひかなくなりました。お腹を凹ませた状態をキープすることでインナーマッスルを鍛える"ドローイング"の作用も含むので、ぽっこり出たおなかを引き上げる効果もあります」「ルーシーダットンは、気持ちよいと感じられる範囲で、ゆっくりと体を伸ばしたり引っ張ったりするような動作を繰り返します。ポーズの一つひとつが簡単で、無理なくできる動きがほとんど。体が固い、筋力がない、疲れやすい、太っている、運動は苦手、そんな方こそチャレンジしてほしい」と五十嵐さん。
普段のセルフケアのひとつとして、ルーシーダットンで心と体を整えてみてはどうだろう。【ビジネスジャーナル初出】(2014年7月)
(文=チーム・ヘルスプレス)