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離婚や家族の死などストレスフルなライフイベントで脳が4カ月老化することが判明

1回の悲報で「脳の老化」が4カ月早まる!?(depositphotos.com)

 不意に背中を叩かれて驚かされた時に「止めてよ、心臓に悪いから」とか、出会い頭の正面衝突を回避した際に「命が縮まるかと思った……」なんて言い方は昔からある。

 そしてヒトは、長い人生の途上で「思わぬ悲報」に接すると、どうやら「脳の老化」が速まるようだ――。そんな知見が『Neurobiology of Aging』(3月8日オンライン版)に掲載された。

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 これは米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のSean Hatton氏らによる研究成果だ。

突然の悲劇はストレスだけでは済まない

 報告によれば、たとえば、「夫婦の離婚劇」「家族の死去」「人生を左右する深刻な健康問題」「望まない金銭トラブル」などに見舞われた際、ヒトは思わぬストレスを抱え込むだけでは済まない可能性を突き止めた。

 Hatton氏が主導する研究陣は今回、「重大かつネガティブなライフイベントを経験すると脳はどんな影響を受けるか?」「いわゆる悲劇に襲われた際、生物学的な脳年齢との関連はいかなるものなのか?」を主題に選んだ。

 その関連研究の対象に選んだのは、1965年~1975年に兵役体験を経た男性359人。そのうち約88%は白人層で、その約80%は前線での戦闘経験は持ち合わせていなかった。

 上記の兵役期間から、「前線での戦闘経験」がベトナムの戦場だとわかる。被験者の平均年齢が「62歳」というから、「戦闘経験なし」が80%も占める理由は、白人層というより「ポスト団塊世代」が大勢だからだと思われる。

 あの時代に兵役体験をしたアメリカの男性であれば、兄弟・友人・同志の死に日常茶飯事で遭遇し、「戦争の影」を引きずって離婚や離別、悔やまれる流産、さまざまな事情が重なっての経済的な苦労など、数多くの問題を抱えたことは容易に想像できる。

1回の悲報で老化が4カ月早まる

 Hatton氏の研究では、彼ら対象者に5年の間隔を設けて、2回の悲劇調査を実施した。

 上記のような項目をはじめ、「深刻な医療上の緊急事態はなかったか?」など、ライフイベント経験の有無を尋ねた。各自の生活習慣や社会経済的状況に関しても微に入り細に入り訊いた。

 そんな質問攻めと並行し、記憶力の検査やアルツハイマー病リスクに関連する遺伝子の調査、加えて脳のMRI検査も行われた。それら全ての情報をアルゴリズムに入力し、そこから脳年齢を推定する。

 このアルゴリズムでは、「脳の老化」に影響を及ぼす可能性がある心疾患リスクやアルコール摂取量、あるいは個別の社会経済的状況や、民族などの因子を調整し、脳年齢の推定が行なわれた。

 その結果、重大かつネガティブなライフイベントの経験と「脳の老化」の関連が、具体的な数値で現われた――。「前者のような耐え難い思いを抱えると、ヒトの脳の老化は1回当たり4カ月早まる」というのだ。

 たとえば、離婚を経て、次に家族の訃報にも接したヒトの場合、4カ月×2回=計8カ月も脳が老化する計算になる。

 この成果は、因果関係を証明するものではないが、脳の加齢現象には、染色体を保護する役割を持つ「テロメア」が関与しているようだ。

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