「無痛症」の家族に共通する遺伝子変異を発見(depositphotos.com)
苦痛に悩むのが人間。だが「痛みを感じられない」、つまり「無痛症」に苦しみに悩む人たちもいる――。
英ンドン大学(UCL)ウォルフソン生物医学研究所のJames Cox氏らの研究チームは、イタリアの「痛みを感じない家族」の遺伝子解析を行い、共通の遺伝子変異を発見し、『Brain』2017年12月13日オンライン版に発表した。
[an error occurred while processing this directive]親・子・孫の三世代の6人にわたって「痛みを感じない」家族
研究チームが対象にしたのは、78歳の女性とその娘2人、孫3人の三世代にわたるMarsili家の6人。彼らは、熱傷を負っても骨折しても痛みを感じなければ、唐辛子の辛さも感じない。全身に痛みを感じる神経は走っているが、それが正常に働いていないのだ。
研究チームが彼らの遺伝子解析を実施した結果、全員に「ZFHX2遺伝子」の変異があることが分かった。また、彼らと同様のZFHX2遺伝子の変異があるマウスを作製し、高温による痛みを与える実験を行ったところ、痛みに対する感覚が失われている事実も判明した。
ちなみに、中等度から重度の慢性疼痛(chronic pain:痛みの原因となる疾患や外傷が治癒した後も持続する疼痛。あるいは関節リウマチや糖尿病など進行性の疾患による痛み)の患者は、全人口の10%に上ると推定されている。
慢性疼痛は、中毒性のあるオピオイド鎮痛薬(消炎鎮痛薬)が有効とされるが、治療が難しい。Cox氏らは「Marsili家のように一部の人で痛みを感じにくい原因を解明すれば、安全に慢性疼痛を治療できる新薬の開発につながるかもしれない」と話している。
研究論文の共著者であるシエナ大学(イタリア)のAnna Maria Aloisi氏は「今回の研究で同定された遺伝子変異が痛みの感じ方にどのように影響しているのか、また他にも痛みの感覚に関与する遺伝子があるのかどうかは、さらなる研究が必要だ。今後は新たな鎮痛薬の開発で何を標的とすべきかが明らかになるだろう」と説明している。