アレルギーを克服する「経口免疫療法」で逆に重篤な症状になるケースも(depositphotos.com)
現在、日本の1歳未満の子どもの10〜20人に1人が発症している食物アレルギー。主に卵や牛乳、小麦などに含まれる「タンパク質」が体内で「異物(アレルゲン)」と認識され、それらを食べることで、むくみ、じんましん、吐き気や嘔吐などの症状が引き起こされる。
食物アレルギーは子どもに多くみられるのが特徴で、6歳以下の乳幼児が患者数の80%近くを占める。国の調査によれば、全国の公立小中高で食物アレルギーを持つ児童生徒は「2004年の2.6%」から、「2013年には4.5%」と年々増え続けている。
[an error occurred while processing this directive]食物アレルギー治療は「完全除去」から「経口免疫療法」へ
一方、食物アレルギーに関する医療はここ10年ほどで大きく変わっている。
以前はアレルゲンとなる原因食物が判明した場合には、「完全除去」を指導するのが主流だった。しかし現在は、原因と考えられるものを少量食べさせて反応を見る「経口負荷試験」を実施。一定量は食べられると判断された場合は、必要な栄養を可能な限り摂取させる「必要最小限の除去」が主流になっている。
除去を必要最小限にすれば、まず日常的に選べる食品の選択肢が広がり、患者本人や周囲の負担が軽減される。また成長に伴って消化吸収機能が発達すれば、原因食物に対して耐性がつくことも多い。
必要最小限の除去により、部分解除を積極的に進めていくことによって、完全解除の時期を早めることも期待できるからだ。
さらに近年、食物アレルギーの新たな治療法として世界的に注目されているのが「経口免疫療法」。医師の管理の下で原因食物をごく少量から毎日食べ、段階的に増やして耐性を獲得していき、最終的に目標量を食べられるようにしていくというものだ。
しかし今年、この経口免疫療法によって、重篤な症状に陥った事例が初めて報告された。
飲めるはずの牛乳で突然呼吸困難に
11月14日に神奈川県立こども医療センター(横浜市)が明らかにしたところによると、経口免疫療法を受けていた子どもが、アレルギー症状とみられる体調不良を訴え、一時、心肺停止になった。緊急搬送の上で救命処置が行われたものの、低酸素脳症が残り、現在も治療中だという。
牛乳アレルギーがあるその子は、入院して牛乳を少しずつ飲む経口免疫療法を受け、治療開始から22日目に退院。通院しながら自宅で1日135㎖の牛乳を飲み続けていたが、退院3カ月後に牛乳を飲んだ後、呼吸ができなくなって救急搬送された。
その2日前に喘息の発作を起こしていたが、気管支拡張薬の吸入で改善したため、翌日の行事には参加していたという。ちなみに、子どもの年齢や性別、問題が発生した時期は「患者家族の了解が得られていない」として、明らかにしていない。
同センターは発病の原因について「牛乳アレルギーの反応性に何らかの変化が起こり、急激に症状が誘発されたと考える」と説明。町田治郎病院長をトップとする倫理委員会で詳細を調査している。
また、食物アレルギー治療の新たな患者受け入れを中止するとともに、経口免疫療法を受けている患者約200人に対して異変があればすぐに連絡するよう求めた。