アルコール処理能力は1時間で約5g(shutterstock.com)
夏なら生ビール、冷酒。冬なら熱燗、お湯割。ワインにハイボール。忘年会に新年会。花見酒、月見酒、雪見酒。笑い上戸に泣き上戸。祝っては呑み別れては酌む。地球はグラスのふちを回り、酒が酒に目を回している。年がら年中、左党はアルコールとの腐れ縁が切れない。
そもそもアルコールって何だろう? アルコールは、酒の主成分であるエタノール(C2H5OH)だ。エチルアルコール、酒精ともいう。容積比率1%以上のエチルアルコールを含む飲料は、酒税法で酒類とされている。
[an error occurred while processing this directive]アルコールは分子量が小さいため、水にも油にも溶けやすいので、体内に吸収されやすい。上戸にとっては、嬉しいような辛いような皮肉な素性がある。
肝臓は24時間・不眠不休でアルコールが底をつくまで働く
酒を飲むとアルコールは体内でどのように変化するのだろう?
アルコールは飲酒後1~2時間かけて、胃で約20%、小腸で約80%が吸収された後、血液に入り全身を巡る。胃や小腸で吸収されたアルコールは、肝臓へ運ばれ分解される。アルコールは体内にとって有害な異物だが、1g当たり7kcalの熱量をもち、エネルギー源になる。ただ肝臓は、アルコールの代謝を調整したり、体内に貯蔵したりする働きがないので、アルコールがすべてなくなるまで分解し続ける。実に質実剛健な働き手なのだ。
肝臓は、まずアルコール脱水素酵素(ALDH)によってアルコールを有害なアセトアルデヒド(CH3CHO)に分解する。アセトアルデヒドは、毒性が強く、悪酔いや二日酔いになる元凶。517個ものアミノ酸でできた高分子のタンパク質だ。さらにアセトアルデヒドは、約6時間かけて肝細胞のミトコンドリアにあるアセトアルデヒド分解酵素(ADH)によって無害な酢酸(CH3COOH)に分解される。
ところが、酒を大量に飲むと、アセトアルデヒド分解酵素(ADH)だけでは処理しきれなくなる。その時に登場するのがミクロゾーム・エタノール酸化酵素系(MEOS)という解毒のスーパーマンだ。ミクロゾーム・エタノール酸化酵素系(MEOS)は、肝臓の細胞のミクロゾームという小器官にあり、解毒酵素のチトクロームP450などの酵素が集まったタンパク質。下戸の人が酒を飲めるようになる仕組みにも関わりがあるらしい。
ADHやMEOSが分解した酢酸は、血液によって全身の臓器に滞りなく運ばれ、筋肉や脂肪組織でアセチルCoA(アセチルコエンザイムエー)に変わり、体内のエネルギー源になる。その後、酢酸は、水と二酸化炭素に分解されて排出される。アルコールの2~10%は、そのまま呼気、尿、汗として排泄される。
このように、アルコールの吸収と分解は、飲み手の思惑や酒量に関係なく、極めて順調に粛々と進められる。肝臓のタフネスの賜物だ。
飲酒後のアルコール血中濃度のピークは、およそ40分~2時間。その後、血中濃度は直線的に下降する。アルコール処理能力は個人差があるが、1時間当たり約5g。つまり、ビール中瓶約1本(アルコール量20g)を分解するのに約4時間かかる。アルコールの吸収や分解には多くの要因が微妙に関わっている。
「人生は生きるに値するか? それはひとえに肝臓にかかっている」――ウィリアム・ジェームス
(文=編集部)
参考:「おもしろサイエンス お酒の科学」(日刊工業新聞)、国立がん研究センターHP、e-ヘルスネットHP(厚労省)、「からだのしくみ辞典」(日本実業出版社)、「アルコールと健康NEWS&REPORTS」(アルコール健康医学協会)、独立行政法人 酒類総合研究所HPほか