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【連載「死の真実が“生”を処方する」第13回】

運転中に起きる心臓と脳の病気! 高血圧の治療が「交通事故死傷者」を減らす

もし運転中に脳卒中や心筋梗塞が起こったら......shutterstock.com

 自動車運転中の急激な体調の変化による交通事故は、軽視できないほど高い割合を占めています。交通事故防止の観点から見ても、高血圧の改善が求められているのです。

 皆さんの中にも高血圧の方がいらっしゃるかと思います。高血圧とは収縮期血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上の状態を指します。

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 平成23年度の国民健康・栄養調査によると、高血圧症患者は15歳以上の35.4%を占めます。しかし、高血圧の治療を受けている人は少なく、ある研究によると40歳~74歳の高血圧の人のうち、降圧(血圧を下げる)治療を受けている人は22.9%でした。また、降圧治療を受けている人の半数以上は、血圧管理が不十分との報告もあります。

 高血圧はさまざまな疾患の発症に影響を及ぼし、特に虚血性心疾患や脳卒中の危険因子として知られています。ですから、厳格な降圧管理を行うことは、これら疾患の罹患率や死亡率低減につながるのです。

 高血圧治療ガイドラインによると、国民全体の平均収縮期血圧がわずか2mmHg低下することで、脳卒中による死者は9127人、虚血性心疾患による死者は3944人低減でき、脳卒中罹患率を6.4%、虚血性心疾罹患率を5.4%低下させることができるそうです。したがって、生活習慣の是正や治療薬を内服することによる積極的な降圧治療が求められているのです。

運転中の病気発症による事故

 ここで自動車運転と病気の発症を考えてみます。これまで、自動車事故の多くは、運転者の前方不注意などのヒューマンエラーが原因と考えられてきました。しかし、運転中の急激な体調変化によって運転操作に支障をきたし、結果的に事故につながることがあるのです。

 ある調査によると、自動車運転者の交通事故のうち、病気が原因と考えられるものは0.4~3.4%とのこと。また、最近、フィンランドで行われた調査によると、運転者の体調変化(機能的変化を含む)が原因の事故は、全体の約1割にもなったそうです。

 では、実際にはどのような病気が多いのでしょうか。残念ながら日本では、運転中の病気発症についての公式統計がありません。ただし、職業運転者が業務中に病気を発症して運行が継続できなくなった場合、事業主がその旨を国土交通省に届出ることになっています。それを見ると、脳血管疾患(脳卒中)が28.4%と最も多く、心疾患が23.2%と続きます。さらに、これら病気を発症した人のうち36%が、発症直後に死亡していました。

 筆者は日頃、突然死の原因究明に務めていますが、自動車運転中の突然死についても調査してみました。筆者が以前に勤務していた施設で、運転中に発症した病気が原因で死亡し、法医解剖された人についての調査を行いました。その原因疾患を見ると、虚血性心疾患が71.7%と最も多く、以下、脳血管疾患と大動脈疾患が10.9%と続きました。やはり虚血性心疾患と脳血管疾患で大部分を占めていたのです。

 さて、運転中に病気が発症するとどうなるか。前記の職業運転者の病気発症では、運転者が病気を発症した直後に事故につながったケースがなんと64.7%もありました。やはり、急に病気が発症したり体調変化が起こると、思うように自動車が操作できなくなるのです。筆者は前記の記録から、病気発症直後に運転者がハンドルを切る、あるいはブレーキを踏むといった行動がとられていたかを確認しました。その結果、73.5%の事故で回避行動が取られていませんでした。

高血圧を治療することで交通事故死傷者が低減できる

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