"笑い"を生活に取り入れよう Violin/PIXTA(ピクスタ)
5月19日、国立がん研究センターの推計によると、国の「がん対策推進基本計画」が掲げた、がんによる死亡者減の目標達成が困難であることがわかった。
「がん対策推進基本計画」は2007年、2015年に20%減を目指す計画を立てた。しかし、医療は進歩を遂げているものの、がん予防対策の機能不足から、結果は17%減にとどまる見通しだ。厚生労働省は「がん対策推進協議会」を開き、対策を話し合う方針だという。
[an error occurred while processing this directive]近年、子宮頸がん予防(HPV)ワクチンの国内認可、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーが行った、がん予防のための乳房切除や卵巣・卵管の摘出手術など、予防医療が話題に上ることもしばしばだ。
ところが、実はもっと手軽に楽しく行える、予防方法がある。「笑いセラピー(laughter therapy)」、あるいは「ユーモア・セラピー(humor therapy)」などと呼ばれるものだ。
「なんだ、笑うだけか」と侮るなかれ。「笑い」が生物学的に身体機能の向上をもたらすことは、さまざまな研究によって、すでに明かだ。具体的には、次のような身体効果が確認されている。
・免疫機能や循環器機能を高める。
・酸素摂取量を高める。
・心臓や肺を活性化させる。
・全身の筋肉をリラックスさせる。
・エンドルフィン(脳内麻薬と呼ばれる、鎮痛効果や幸福感をもたらす脳の神経伝達物質)の放出を誘発させる。
・消化不良や胃痛を癒す。
・痛みを和らげる。
・血圧のバランスを整える。
・精神機能を向上させる(覚醒、記憶力、創造力など)。
米国では、こうした笑いの治癒力を、複数の医学専門誌が認めており、多くの病院において補完代替療法として「笑いセラピー」が取り入れられている。
大声で笑うほど「がんは遠のき、福が来る」
「笑いセラピー」は、さまざまな病気に適用するが、最近はとりわけ、免疫機能向上の観点から、がん予防において注目されている。
がん細胞は、健康な人でも体内では毎日発生している。だが、「ナチュラルキラー(NK)細胞」というリンパ球の一種が、次々とがん細胞を退治し、発症を防いでいる。つまり、NK細胞の活発な働きが、がん予防の大きなカギとなる。
"笑い"には、NK細胞を活性させる効果がある。とくに、声をあげてよく笑うときほど、脳の前頭葉が刺激されてNK細胞をひときわ活性化させる。大声で笑うほど、免疫力がアップするというわけだ。
全米の拠点病院で、がん治療を促進するための活動を展開している「米国がん治療センター(CTCA)」は、笑い療法を積極的に取り入れている機関のひとつだ。
ここでは、治療法の一環とあって、ユーモアや冗談による自然な笑いよりも、「運動としての笑い」を物理的に取り入れている。リーダーを中心に、参加者が輪になって、指で笑顔をつくり、「ハハハ」「ヒヒヒ」などの声を出して笑いを生み出す。
不自然なようだが、笑いは驚くほど「伝染力」があるので、心配には及ばない。やがて、グループ全体に笑いが蔓延する。
こうした試みを、健康な人が独りで行うのはやや難儀だろう。だが、「アハハ」と笑って過ごすひととき、「お笑い番組やコメディ映画を鑑賞」「気心しれた人と談笑」「子どもやペットと遊ぶ」などを持つことは、それほど難しくない。
問題は、こうした時間を持つ余裕があるかどうかだ。多忙で気持ちが沈み、笑うどころではない、そんな人は要注意だ。NK細胞はストレスにめっぽう弱い。おまけに笑わないのは、がん細胞の思うツボである。
どんなに忙しくても、気持ちがふさいでも、強引にでも"笑い"を生活に取り入れよう。笑いには、次のような心理的効果も認められている。
・考え方が前向きになる。
・ストレスや緊張を緩和する。
・生活の質(QOL)が向上する。
・睡眠の質が向上する。
・人との関係が良くなる。
・幸福感が増す。
まさに「笑う門には福来たる」である。余計なお金や時間を費やさず、楽しんでできる、とても「コストパフォーマンス(コスパ)に優れた」健康法だ。巷にはびこる、高額で怪しげな免疫療法や健康食品などに頼ることはない。
(文=編集部)