居眠りが引き起こす交通事故も大きな経済損失に wildcat78/PIXTA(ピクスタ)
ゲームやネットに夢中になり、あっという間に深夜。あげくの果てにベッドに入っても寝付けない。リズムの崩れた生活で脳をいじめ、仕事や日常生活に支障をきたしていないだろうか。
睡眠不足がもたらす、こんなセンセーショナルな調査がある。日本大学医学部の内山真教授(精神医学)が、勤労者の不眠症など睡眠に関わる問題が日本経済に及ぼす損失をはじきだした。
[an error occurred while processing this directive]調査は、大阪の化学企業の従業員3075人(有効回答)を対象に、睡眠や日中の眠気による作業効率の低下、交通事故などをアンケート。それをもとに賃金、交通事故の保険金など、公的データを合わせながら推計した。その結果、日本経済の損失は、年間で約3.5兆円に上ることを初めて明かにした。
内訳は、作業効率の低下が3兆665億円、欠勤731億円、遅刻810億円、早退75億円、交通事故2413億円、しめて3兆4693億円。調査には睡眠障害が引き起こす健康被害の損失が含まれていないというから、これを加えたらさらに巨大な損失になるはずだ。
企業も「スリープマネジメント」に乗り出した
睡眠不足による経済損失がストレートに懸念される深夜バスや物流関係の会社のなかには、すでに睡眠障害に目を向けるところがある。
東京ヤサカ観光バスでは、運輸業界で増加している睡眠不足が原因で起こる交通事故の削減に乗り出し、「睡眠セミナー」を開催。事故減少に向けての睡眠アンケート調査を実施したり、ドライバーと運転管理者がスマホや携帯を通して情報を共有したり、常に健康状態や生活習慣をチェックする「スリープマネジメント」に取り組んでいる。
"眠れない脳"の行きつく先はうつ病?
睡眠不足の原因は、何も職業によるとは限らない。悩み事、深夜に及ぶパソコン操作、スマホやタブレット閲覧などさまざまだ。脳が"反乱"を起こす前にやめればよいのだが、のめり込んでしまいやすいのもこの手の趣味の特徴だ。
ところで、本来眠るべき時間に、脳が"電脳ラッシュ"にさらされるとどうなるのか?
「入眠時には副交感神経が優位になり、緊張を解いて心身を休息させる状態が始まります。しかし、ベッドに入ってからも携帯やスマホなどを操作していたらどうなるでしょう。画面の光や情報内容による刺激が交感神経を刺激して、脳を覚醒させて入眠を妨げます。また、夜中に何度も着信があるとそのたびに起きて睡眠が浅くなります。疲労が蓄積され、ストレスの行きつく先がうつ病ということにもなりかねません」
こう警鐘を鳴らすのは北山クリニック(東京都西東京市)の北山徳行院長(精神科医)。対策は、ネットやゲームを早めに切り上げることのほか、「深夜にメールをしない、電話をかけない。例えば22時以降は電源を切り、メールチェックは朝起きてからにする。昔は夜9時過ぎの電話は控えなさいと言われたものですが、携帯やスマホにも同様のマナーがあっても良いはず」とアドバイスをする。
ヒトの体は、地球の自転による24時間周期に合わせて、体温や血圧、ホルモンの分泌などの働きを変化させている。この生物に備わるサーカディアンリズム(概日リズム)の狂いが、肥満や生活習慣病、がんの発症などとも関係することが指摘されている。睡眠の質の担保はパフォーマンスの発揮にも影響する、ビジネスパーソンにとって不可欠なマネジメントだといえる。
(文=編集部)